やわらかなバッハの会 Soft Bach Society

先入観念にとらわれることなく、バッハの音楽に親しむ会です。
イコール式音楽研究所  所長  橋本絹代
Equal Method Music Institute President Kinuyo Hashimoto

古楽

内田光子

内田光子は1970年のショパンコンクール第2位に輝き、ロンドンを中心に世界的に活躍しているピアニストです。世界中の音楽家の憧れであるザルツグルク音楽祭に今年も出演が決まっています。彼女が1982年に東京とロンドンで行ったモーツァルトのピアノソナタ全曲演奏会は大変な盛り上がりを見せました。

この演奏会で使われたピアノの調律が普通の平均律とは違うものであったことが1982年11月27日の新聞に掲載されました。内田光子がコンサートで古典調律を用いたのではないかと言ううわさがごく一部の音楽関係者の間でささやかれていましたが、本人の口からはっきり語られたのは今回が初めてのことでした。内田光子はインタビューに答えて「東京での4夜の演奏会はすべて古典調律法を使いました。弾いている私にとって、これ以上はないと思うぐらいのすばらしい音でした」と語りました。続けて「とりわけ、モーツァルトでは古典調律法がそれは美しく響きすっかりこの音のとりこになってしまいました。今、世界でも古典調律法で演奏したピアニストは多分私だけでしょう」と語っています。この演奏会で使用されたのは古典調律の中のヴェルクマイスターでした。

近年の古楽ブームの影響で多少は古典調律に興味を持つピアニストが増えてきました。非平均律のピアノを使った演奏会も時々耳にするようになりましたが、それでも未だピアノ界は平均律がほとんどという状態です。自分で音程を作りながら演奏するヴァイオリニスト等に比べて、ピアニストは音程に対して関心が薄く調律師任せにする傾向が見られます。

バッハ、モーツァルト、シューベルト、ベートーベン、ショパン等の時代は古典調律でもって作曲し、演奏していました。平均律に移行したのは1850年以降のことです。18、19世紀の美しい響きを20世紀の平均律が単純でモノクロの響きに変えてしまったのです。

私たちは生まれた時から平均律に囲まれ、平均律で古典の曲を弾いてきました。
そのことに何の疑問も持たずに弾いてきたわけですが、私は10年程前から古典調律に興味を覚え、家の2台のグランドピアノをヴェルクマイスターとキルンベルガーに変えました。いつも信頼をおいて自宅のピアノをお願いしている調律師は「古楽の演奏会で古典調律をやったことはありますが、ピアノの先生のお宅でやるのは初めてです」と最初は驚かれた様子でした。ミーントーンの調律などもやっていただきましたが、これはほとんど使えず直ぐに調律変えしました。古典調律に慣れてくると今までの平均律が非常に無表情で濁って聴こえてくるから不思議です。無表情と感じるのは何処をとっても等しい幅の調3度であり、何調で弾いても同じ表情になるからです。
平均律は大型チェーン店の味、古典調律は店ごとに趣の違う味と言えるでしょう。



調性格テスト

オルガンの専門家であるケレタートが1978年におこなった調性格の聴取テストをご紹介します。

*被験者はピアニスト、チェンバロ奏者、オルガニスト、ピアノ調律師、オルガン等の製作者、音楽学者など40人。

平均律とキルンベルガーに調律したチェンバロを交互に弾くテストで、曲は平均律クラヴィーア曲集 1巻1番 ハ長調 プレリュードです。
この曲をロ長調、ハ長調、変ニ長調で演奏しました。

結果は平均律では音の高さが変わったことには気づいたが調性の違いを確認できた被験者は一人もいませんでした。
キルンベルガーでは純正の長3度でハ長調はおのずと分ってしまい、ロ長調と変ニ長調はどこかおかしいと感じられました。

次に平均律クラヴィーア曲集 1巻8番 嬰ニ短調 プレリュードをニ短調、嬰ニ短調、ホ短調で演奏します。

結果は平均律では特徴的な性格を持つ短調の表現に合わないと感じられた。
キルンベルガーではニ短調とホ短調は中立的で単に綺麗に響くだけ、嬰ニ短調は非常に説得力のある段階に達していると感じられた。*

以上の結果から言えることは平均律では音の高さの違いしか感じられず調性格は感じられないということです。一方キルンベルガーでは調性格の違いを実際に耳で確認することができたということです。

「平均律クラヴィーア曲集」は24の長短調が網羅されています。これらを、平均律で弾くと調性格は感じられずすべての調が同一のモノトーンです。何調で弾いても調性格に違いが感じられないのに何故24もの調短調で弾く必要があるのでしょうか。わざわざ難しい調で弾いて何のメリットがあるのでしょうか。

イコール式では、まず全曲をハ長調とイ短調で相対音感的にしっかりと理解することが大切だと考えます。この2つの調は階名と音名が一致するので、バッハの対位法を一目瞭然で理解し、内的聴覚でもって音楽を頭の中に記憶することができます。学んだ1曲1曲を記憶に留め、頭の中に財産として蓄積することが可能です。絶対音感に基づく固定ド読みで「平均律クラヴィーア曲集」を弾いたのでは内的聴覚でもって音楽を頭の中に記憶することが困難です。


バッハのホ長調

バッハの鍵盤楽曲の中からホ長調についてを調べてみましょう。

当時最も傑出したオルガン奏者であったバッハは#♭3個までの調でオルガン曲を書きました。例外的に#4個のホ長調が1曲だけあります。それは「プレリュードとフーガ ホ長調 BWV 566」です。しかしこれはクレープスやケルナーが筆写した手稿譜ではハ長調になっており、ホ長調でもハ長調でも良いような曲です。

バッハはオルガン以外の鍵盤楽曲も#♭3個までの調が大半を占めています。#4個のホ長調は数えるほどしかありません。ホ長調は以下の8曲です。
インヴェンション6番 BWV 777
シンフォニア6番 BWV 792
フランス組曲第6番 BWV 817
平均律クラヴィーア曲集 第1巻の9番 BWV 854
同上          第2巻の9番 BWV 878
6つの小プレリュード BWV937
カプリッチョ「ヨーハン・クリストフ・バッハを讃えて」BWV 993
ヴァイオリンとチェンバロのための6つのソナタ BWV 1016

それではここでバッハが書いたホ長調の各曲の性格を一つづつ見てみましょう。
インヴェンションは軽やかで愛嬌があり、シンフォニアは田園的、フランス組曲は6曲中最も輝かしく、平均律のプレリュードは穏やかな気分、6つの小プレリュードは軽快なアルマンド、カプリチョは若さにあふれた活発な気分、ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタは穏やかな田園的気分です。
マッテゾンが言う調性格のホ長調は悲しい曲想ですが、バッハのホ長調の8曲は明るく活発、静穏な癒しが感じ取れます。

マッテゾンはミーントーン音律におけるホ長調の性格、バッハは不等分平均律におけるホ長調の性格です。調性格は音律が違えば当然違ってきます。12等分平均律のホ長調はマッテゾンやバッハともまた違った性格になります。
ただしここではっきりしている事は、12等分平均律のホ長調は1種類、それ以外の不等分音律のホ長調は無限にあるということです。
さらに言えることは12等分平均律におけるホ長調は特有の性格を持たず全長調が同じものになるということです。不等分音律においてはこのようなことは起こりません。

キルンベルガー

バッハは音楽についての理論的な著書を全く書きませんでした。残念なことにその教えは弟子の著書を通じ後世に伝えられているのみです。
弟子のキルンベルガー(1721生)は師バッハを「あらゆる時代を通じて最も偉大な和声の達人」と呼び、方法論的にも内容的にもバッハの教えである主著[正しい作曲技法 1771 ]を書きました。
[正しい作曲技法]についてシュピッタ(1841生、音楽学者)は次のように述べました。すなわち「バッハの実践的教えの反映である。20世紀までほとんど独占的に決定的なものであった」と。

そのキルンベルガーは最初から平均律を拒否し、1779年においてもなお「平均律は退けるべきもの」と語るました。
「平均律を耳だけで調律するのは不可能であること」や「調性格が失われること」などが平均律を退ける理由でした。

もし、バッハの教えが平均律であったのなら彼がこのようなことを言うのは理解し難い事です。「平均律クラヴィーア曲集」の平均律という訳語を今日の12等分平均律であると考える意見もありますが、キルンベルガーの考えから察すると不等分平均律であるというのが妥当です。
やわらかなバッハの会
〒753-0072 山口県山口市大手町
3−6 大手町ビル4F
毎週土曜日18:00 PM
毎週金曜日10:00 AM
毎月1回   対話集会18:00 PM
都合により日時を変更する場合もありますので初めての方は事前にご連絡ください

お問い合わせはこちら

マンスリーバッハ (第2日曜日)
午後4時〜6〜時
場所:新山口駅構内

第6回 バッハ礼讃音楽祭 
2019年8月4日14時
山口県旧県会議事堂
講演 Michael Maul(バッハフェスト芸術監督、BWV 1127の発見者)
演奏 BWV 1127 他

<プロフィール>
やわらかなバッハの会 
会長 橋本絹代
新しい鍵盤楽器記譜法「イコール式」の創始者

子供の頃、父と一緒に、バッハのフーガをピアノ分担奏で弾くことによって、声部進行を直感的に学び取り
バッハのとりこになった。
初級者でもバッハのフーガを楽む方法を提案している。

2007年 世界で初めての楽譜《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》カワイ出版 

2009 音楽書『やわらかなバッハ』春秋社

2013「やわらかなバッハの会」設立

2014 バッハ礼讃音楽祭 (於 旧県会議事堂) 毎年開催

2016 バッハ・イン・ザ・サブウェイズ (於 新山口駅構内)毎年開催

2017 Bach Network UK 対話会議研究発表 (於 ケンブリッジ大学)

2017 Prof.Yo Yomita (富田庸) 講演会「バッハを嗜む」主催(於山口大学)

2018 Thomas Cressy 明治150年記念「日本の明治時代におけるバッハ受容」

イコール式とは「鍵盤楽器においてどの調も皆同じ」という意味です。
なぜなら12等分平均律の鍵盤楽器における調性とは、ただ高さのみによって識別される2つの旋法、すなわち長調と短調の性格だけに限られるからです。
12等分平均律は勿論のこと、不等分音律を前提に論じたマッテゾンでさえも「どんな調もそれ自体では、その逆を作曲し得ないほど悲しかったり楽しかったりすることはできない」と述べています。
異名同音、ピッチの変動、バッハの手による移調の試みなどを考慮すれば、《バッハ平均律クラヴィーア曲集》の中の難しい調を簡単な調に移調してまず親しむことが大切です。初級者は更にそれをアンサンブルで楽しむことが大切です。
やわらかなバッハの会は既成概念にとらわれず、自分自身の判断で音楽の本質を探究するところです。


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<イコール式の意味>
*12等分平均律の鍵盤楽器においてはどの調も同じ(イコール)です *フーガの各声部は主従関係ではなく対等(イコール)です *12等分平均律の調律法はイコール・テンペラメントと言います *音名と階名が同じ(イコール)読み方です
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