やわらかなバッハの会 Soft Bach Society

先入観念にとらわれることなく、バッハの音楽に親しむ会です。
イコール式音楽研究所  所長  橋本絹代
Equal Method Music Institute President Kinuyo Hashimoto

調律

調性格 ♭ ヘ長調

イコール式チラシ

ケレタート著「音律について」
ヘ長調の調性格

マッテゾン・・・世界で最も美しい感情
シリング・・・・心底からの最も神聖な平安
フォーグラー・・非常に静か
クラーマー・・・柔和な品位
マルクス・・・・穏やかで優しい感受性
ベック・・・・・深化した自然感覚
リューティー・・(モーツァルトに関して)穏やかな気分
シンドラー・・・(ベートーベンに関して)田舎の平穏

これらはバッハの時代に一般的であった不等分音律でもって演奏した場合に感じられる調性格です。
今日一般的に使用されている平均律ではすべての調が等しい音階組織を持つので、調性格は存在しません。
従って平均律においてはヘ長調をいかなる調に移調して演奏しても、その音楽の構造は変化を全く受けません。
ハ長調とイ短調に移調したバッハ平均律クラヴィーア曲集
イコール式


今度はバッハ「平均律クラヴィーア曲集」の中にあるヘ長調を見てみましょう。
「平均律クラヴィーア曲集」第1巻No.11ヘ長調は優美な可愛い性格の2声インヴェンションと楽しげなパスピエ風のフーガです。
2巻No.11ヘ長調は平穏で柔和なプレリュードと活気に満ちたジーグ風のフーガです。

「平均律クラヴィーア曲集」の中のヘ長調を見ると、不等分音律の調性格論者たちが言う「穏やかで神聖な平安」と一致するのは2巻のプレリュードのみです。その他の曲は「穏やか」というよりはもっと可愛く、楽しく活気に満ちたものです。
バッハは「平均律クラヴィーア曲集」を作曲し演奏する際に、24すべての調が極端な響きを発生しないように調律しました。このことは「すべての長3度を純正より広く取る」とバッハ自身が述べたことからも理解できるように、今日の平均律に近い音律であったことが想像できます。
従って平均律と同じように「平均律クラヴィーア曲集」には調性格が殆んど存在しないとも言えるでしょう。

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杓子定規音律

1b7680aa.JPG純正調オルガンの鍵盤図を見ると「ハ」と「ニ」の間に「嬰ハ、変ニ、ニ」と3個も黒鍵があります。この3個の黒鍵を弾き分けることによって、1オクターヴ12個の半音を持つ普通のオルガンよりも美しい和音を得ることができる仕組みになっています。

現在の平均律のオルガンは上記3個の黒鍵を1個の黒鍵で代用します。
調によって読み方は「嬰ハ」や「変ロ」と異なれど、実際に弾く鍵盤は同一です。これを異名同音と言います。異名同音は「嬰ハ」でもなく「変ニ」でもない中間的な音です。平均律という調律法はこのように、どの音も微妙に狂った状態を作る方法です。当然、和音の美しさも犠牲になります。

平均律は1オクターヴを機械的に12等分割したものです。そのセント値は「ハ=0」として「嬰ハ=100」「ニ=200」「嬰ニ=300」〜〜「ト=700]〜〜「ロ=1100」「高ハ=1200」です。

調律とは1オクターヴに含まれる鍵盤の数を12個に留めながらも、その一つの鍵盤に、純正調では互いに高さを異にすることになるいくつもの音を代行させようとすることです。その調律の中で、最も安易で杓子定規な音律が平均律です。

純正調オルガン

<バッハが弟子に要求した「純正より広い長3度」について考える前に、鍵盤楽器の特徴について考えましょう。

鍵盤楽器はタッチによって音色や強弱は変えられますが、音程は調律以外に変えることができません。弦楽器、管楽器、声楽などは自分で自由に音程の微調整をしながら演奏するのが普通です。ところが鍵盤楽器は音程が固定されており、微調整することができません。12個に固定された音程を少しでも純正に近づけようと試みたのが写真の純正調オルガンです。a href="https://livedoor.blogimg.jp/fughetta/imgs/9/a/9a801549.JPG" target="_blank">9a801549.JPG
調によって、3種類の「嬰ハ」を弾き分け、半音の「ホーヘ」間にもうひとつ鍵盤があります。この楽器で演奏すると1オクターヴ12鍵盤のものよりは多少とも美しい和音が得られますが演奏困難なために普及しませんでした。

鍵盤楽器奏者は自分で音程を微調整できないので、往々にして音程に対して無頓着になりがちです。音程は調律師任せになっています。
バッハは自分で調律しましたし、それが当時は当たり前のことでした。

バッハには「平均律クラヴィーア曲集」を途中の調律替えなしで演奏できる調律法が必要でした。当時一般的だったミーントーンでは演奏不可能な調がありましたので、それを宥めすかす妥協策として「純正より広い長3度」と言ったのです。
多少純正度を犠牲にしても24すべての調が演奏できる調律法は「純正より広い3度」だったのです。

誤解の原因

なぜ、バッハが自ら調律した楽器が平均律であったと断定されたのでしょうか?
バッハは本当に平均律で《平均律クラヴィーア曲集》を演奏したのでしょうか?

それは音楽批評家マールプルク(1718生)が語った言葉の「かのキルンベルガー氏がバッハのもとでレッスンを受けていた時、バッハは長3度をすべて純正より広く取るように強く要求した」から始まっているようです。

バッハが弟子のキルンベルガーに要求した内容は、平均律以外にもいくらでも当てはまるのですが、マールプルクは短絡的に、バッハが平均律を採用したことの証拠と見なしました。

「すべての長3度が純正より広い」といえる音律は実は無数に考えられるのですが、有名なものでははヴェルクマイスター、ナイトハルト、ヴァロッティなどがあります。

音楽理論家テュルク(1750生)はマールプルクによって挿入された誤りを「多くの人々は自分自身で確かめることができないか、確かめる気持ちがないので、マールプルクの名声に惑わされて、彼の過った意見に説得されてしまう恐れがある」と指摘しました。

フォルケル

フォルケル(1749生)は著名な「J.S.バッハの生涯」を書いた音楽学者です。

彼は「バッハはチェンバロやクラヴィコードを調律するのに15分もかからなかった」と述べました。

また彼の言葉によれば「バッハは弟子たちを諸音の関係の計算に引き留めておくようなことはしなかった。なぜなら、計算は理論家と楽器製作者のものだからである」のです。

当時は楽器の修理、調律までもが演奏者の仕事でした。さらに、演奏者は即興演奏や自分が作曲したものを披露しました。平均律一辺倒の現在と異なり、当時は無数の不等分音律がありましたから、自ら調律して自分の耳で適正な音律を作ることが作曲の一部でした。

上記のバッハが言った言葉の意味は「音律の理論計算は理論家とオルガンパイプの長さを設計する楽器製作者の仕事であって、演奏家は耳で音律を作る」ということです。調律、作曲、演奏が分ち難く一体でした。
現在のように作曲者と演奏者が別れたのは、手の故障でピアノが弾けなくなったシューマン以降のことです。
それまでの作曲家は同時に演奏の名手でもありました。作曲のための作曲ではなく、自ら演奏するための作曲でした。

バッハが表題に書いた「うまく調律された」の意味は「算術的アプローチによらず、耳で簡単に調律できること」も大切な要素だということです。
やわらかなバッハの会
〒753-0072 山口県山口市大手町
3−6 大手町ビル4F
毎週日曜日19:00 PM
毎週金曜日10:00 AM
毎月1回   対話集会18:00 PM
都合により日時を変更する場合もありますので初めての方は事前にご連絡ください

お問い合わせはこちら

マンスリーバッハ(毎月第2日曜日)
午後4時〜6〜時
場所:新山口駅構内

ライプツィヒ・バッハ音楽祭
2020年6月14日3:00 PM
ライプツイヒ福音改革教会

<プロフィール>
やわらかなバッハの会 
会長 橋本絹代
新しい鍵盤楽器記譜法「イコール式」の創始者

子供の頃、父と一緒に、バッハのフーガをピアノ分担奏で弾くことによって、声部進行を直感的に学び取り
バッハのとりこになった。
初級者でもバッハのフーガを楽む方法を提案している。

2007年 世界で初めての楽譜《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》カワイ出版 

2009 音楽書『やわらかなバッハ』春秋社

2013「やわらかなバッハの会」設立

2014 バッハ礼讃音楽祭 (於 旧県会議事堂) 毎年開催

2016 バッハ・イン・ザ・サブウェイズ (於 新山口駅構内)毎年開催

2017 Bach Network UK 対話会議研究発表 (於 ケンブリッジ大学)

2017 Prof.Yo Yomita (富田庸) 講演会「バッハを嗜む」主催(於山口大学)

2018 Thomas Cressy 明治150年記念「日本の明治時代におけるバッハ受容」

イコール式とは「鍵盤楽器においてどの調も皆同じ」という意味です。
なぜなら12等分平均律の鍵盤楽器における調性とは、ただ高さのみによって識別される2つの旋法、すなわち長調と短調の性格だけに限られるからです。
12等分平均律は勿論のこと、不等分音律を前提に論じたマッテゾンでさえも「どんな調もそれ自体では、その逆を作曲し得ないほど悲しかったり楽しかったりすることはできない」と述べています。
異名同音、ピッチの変動、バッハの手による移調の試みなどを考慮すれば、《バッハ平均律クラヴィーア曲集》の中の難しい調を簡単な調に移調してまず親しむことが大切です。初級者は更にそれをアンサンブルで楽しむことが大切です。
やわらかなバッハの会は既成概念にとらわれず、自分自身の判断で音楽の本質を探究するところです。


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<イコール式の意味>
*12等分平均律の鍵盤楽器においてはどの調も同じ(イコール)です *フーガの各声部は主従関係ではなく対等(イコール)です *12等分平均律の調律法はイコール・テンペラメントと言います *音名と階名が同じ(イコール)読み方です
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