やわらかなバッハの会 The Society of Soft Bach

先入観念にとらわれることなく、バッハの音楽に親しむ会です。
イコール式音楽研究所  所長  橋本絹代
Equal Method Music Institute President Kinuyo Hashimoto

相対音感

ざる教授法

ビルロート(1829生)はブラームスとの往復書簡で知られているドイツの外科医です。彼はホームコンサートで自らヴィオラを受け持ってブラームスの室内楽曲を演奏するなど音楽に造詣が深い人物でした。これから紹介する話は彼の著書「音楽的なのは誰か」から引用したものですが、この話はピアノ教授法のあり方に対する問題の核心をつくものです。

**ピアノを習っている少女はモーツァルトの曲を家で3週間も練習してから、先生に見てもらうためにレッスンに出掛けました。遅刻したので先生はピアノを弾いていました。少女は暫くその演奏に耳を傾けてから訊ねたのでした。「先生の弾いておらた曲は何ですか?」先生は驚いて「これは今日あなたがレッスンに持って来た曲ではありませんか」と答えました。少女はレッスンが始まると、その曲を上手に弾いたということです。**

実を言うとこの少女と同じ生徒は日本にも外国にも沢山いるのです。過去に仕上げた曲や、現に今さらっている曲なのに、楽譜を目で確認しなければその曲と分らない少女は多いのです。

なぜ、このような現象が起きるのかというと、音楽を指の感覚や楽譜写真の記憶として経験しているからなのです。それは音楽を耳や頭の中に持ち合わせないことを証明しています。指は耳や頭が命ずることをやらなければならないはずなのに、頭は真っ白で指の感覚に任せて弾くのは間違っています。このような少女は演奏会が近付くと暗譜が不安で恐怖心に苛まれます。一旦ステージで止まってしまうと、頭は真っ白、指は感覚を失い次の音を探す手がかりを失ってしまいます。

ビューロー(1830生、ドイツの指揮者、ピアニスト)は「歌えない人は---声の良し悪しにかかわらず---ピアノも弾くべきではない」と言っていますが、これは内的音感覚の大切さをのべたものです。内的音感覚で音楽を捉えその記憶でピアノで演奏することの大切さを述べたものです。ビルロートが描いた少女の先生も、ビューローが言うように内的音感覚を伸ばし、その記憶で音楽を演奏させる教授法に変えて欲しいものです。内的音感覚があれば楽譜を写真として記憶するのではなく、音として記憶することが可能です。内的音感覚をないがしろにした教授法は、糸の端に玉止めをしないで、針を進めるようなものです。どんなに上手に速く針を進めて縫っても、永久に着物はでき上がらないのです。生徒に沢山の曲を教えても、指の感覚が覚えているだけで、頭の中はカラッポのままのザル教授法となってしまいます。ザル教授法を防ぐ玉止めは内的音感覚です。内的音感覚を成長させる最も良い方法は相対音感でもって教授することです。イコール式は正にこの点を改良すべく考案したものです。

例えばモーツァルトのピアノソナタ K331 イ長調の冒頭部分「Cis-D-Cis-E--E」はイコール式の楽譜では「E-F-E-G--G]となります。従来の楽譜をそのまま固定ドで読むと音の機能が分らず、単に弾くべき鍵盤を指定するのみですから、内的音感覚の成長は望めません。これを移動ドで読めば、音の機能は分かりますが、弾くべき鍵盤と階名が食い違うという混乱が起こります。それ以前に移動ドに読み替えるのは大変難しい壁があります。イコール式の楽譜は読み替えを無くしました。しかも音の機能が理解できて、弾くべき鍵盤との間に混乱が生じません。絶対音感を持つ人も、持たない人も両方とも内的聴覚を伸ばすためには相対音感による読み方が必要です。

現状のピアノ教授法は、絶対音感を基準にした読み方で行われていることが大きな問題です。幼少期に絶対音感教育と無縁であった人、つまり相対音感保持者対しても、絶対音感教授法を用いるのは更に大きな問題です。現状のピアノ教育は「移動ド」に読み替えるのが難しい、固定ドが便利という安易な理由だけで音楽の根幹に関わることがおろそかにされています。

イコール式はこのことに警鐘を鳴らし内的音感覚を成長させることを目指した教授法です。イコール式はすべての音楽をハ長調とイ短調で記譜する方法です。イコール式は単に移動ド読みの難しさを取り除いただけではなく、読んだ音と弾くべき鍵盤が一致する方法です。従来の移動ド読みでは階名と弾くべき鍵盤名が食い違うという混乱がありましたがこれを解消しました。ハ長調とイ短調だけが相対音感保持者のみならず絶対音感保持者の耳にも無理なく受け入れることができる調です。





バックハウス

20世紀前半最高の一人に数えられるバックハウスはドイツのピアニストです。
彼は「平均律クラヴィーア曲集」の中のどの曲も、あらゆる調で自由に弾くことができたといいます。
なぜこのような超人的なことができるのかいうと、音楽を相対音感的に捉える訓練が必要なのです。
子供の時から、相対音感(=移動ド)で簡単な曲を他の調で弾く訓練をしていれば、《平均律クラヴィーア曲集》を弾く頃になってもそれほど難しくはないはずです。

現在のピアノ教育は絶対音感(=固定ド)が主流であり、相対音感(=移動ド)は絶対音感を持たない音楽的敗者の方法と誤解されるようになってしまいました。
絶対音感保持者にとって、移調によるピッチの変動は耐え難く、《平均律クラヴィーア曲集》の移調奏はまず耳が拒否してしまうでしょう。
音楽を鍵盤と指の感覚で覚えている人にとっては、たちまち指の運びに支障をきたす移調奏は困難です。
楽譜で音楽を覚えている人は、音部記号を変える感覚で多少対処できますが、日頃使わないハ音記号などは、たちまち頭の混乱を起こし、移調がスムースにいきません。

このように絶対音感ピアノ教育では《平均律クラヴィーア曲集》の移調は難しく、音楽を相対音感で覚えている人は比較的楽に移調奏ができるのです。
ピアノの楽譜は絶対音感(=固定ド)で読む人が大半ですが、非絶対音感者の中にも、固定ドで《平均律クラヴィーア曲集》を弾く人は少なくないのです。
この現象は根幹的な大問題をはらんでいますがこれについては拙著に詳しく述べました。(『やわらかなバッハ』 橋本絹代 著)

リスト(Franz Liszt 1811〜86)は19世紀の華麗なるヴィルトゥオーソですが、彼は 10 才の時、ハンガリーの貴族たちから提供された奨学金でもって父親と共に、ウィーンに移住しました。
そこでリスト父子は有名なベートーベンの門を叩きました。
ベートヴェンは何度も入門を断ったのですが、あまりの熱意に根負けしたベートーヴェンは幼いリストに「今弾いたバッハのフーガを別の調で弾けますか」と問いました。
10才のリストは移調を見事にやってのけたということです。もしリストが絶対音感をもち、音楽を固定ドでとらえていたら移調奏はできなかったでしょう。
リストの秀でたピアノテクニックは相対音感(=移動ド)がもたらした精華といえるでしょう。


相対音感的訓練こそ、真の音楽家の基礎となるものです。絶対音感は音楽家にとって邪魔にこそなれ音楽力とは無縁のものです。
イコール式はハ長調とイ短調の基礎調を用いますので、音楽を相対音感的に捉えることが容易です。
相対音感こそが音楽家としての良い耳を育てるのです。
やわらかなバッハの会
〒753-0072 山口県山口市大手町
3−6 大手町ビル4F
毎週土曜日 輪奏会17:00 PM
第2金曜日 輪読会10:00 AM
毎月1回   対話集会17:00 PM
都合により日時を変更する場合もありますので初めての方は事前にご連絡ください

5周年記念バッハ礼讃音楽祭
2018.7.29(日)14:00

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<プロフィール>
やわらかなバッハの会 
代表 橋本絹代
新しい鍵盤楽器記譜法「イコール式」の創始者

子供の頃、父と一緒に、バッハのフーガをピアノ分担奏で弾くことによって、声部進行を直感的に学び取り
バッハのとりこになった。
これまで約400人のピアノレッスンを通じて、バッハのフーガを弾くことの重要性を認識し、初級者でもバッハ演奏を楽む方法を提案。

2007年 世界で初めての楽譜《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》カワイ出版 

2009年 音楽書『やわらかなバッハ』春秋社

2013年「やわらかなバッハの会」設立

2014年 バッハ礼讃音楽会 (於 旧県会議事堂) 毎年開催

2016年 バッハ・イン・ザ・サブウェイズ (於 新山口駅南北自由通路 )毎年開催

2017年 Bach Network UK 対話会議研究発表 (於 ケンブリッジ大学)

Prof.Yo Yomita (富田庸) 講演会「バッハを嗜む」主催 (於 山口大学)

イコール式とは「鍵盤楽器においてどの調も皆同じ」という意味です。
なぜなら12等分平均律の鍵盤楽器における調性とは、ただ高さのみによって識別される2つの旋法、すなわち長調と短調の性格だけに限られるからです。
12等分平均律は勿論のこと、不等分音律を前提に論じたマッテゾンでさえも調性格の恣意性を指摘しています。
異名同音、ピッチの変動、バッハの手による移調の試みなどを考慮すれば、《バッハ平均律クラヴィーア曲集》の中の難しい調を簡単な調に移調してまず親しむことが大切です。初級者は更にそれをアンサンブルで楽しむことが大切です。
やわらかなバッハの会は既成概念にとらわれず、自分自身の判断で音楽の本質を探究するところです。


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音楽の構造が良く解る










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<イコール式の意味>
*12等分平均律の鍵盤楽器においてはどの調も同じ(イコール)です *フーガの各声部は主従関係ではなく対等(イコール)です *12等分平均律の調律法はイコール・テンペラメントと言います *音名と階名が同じ(イコール)読み方です
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