バッハには沢山の編曲作品があるが、今回はチェンバロ協奏曲を考察する。チェンバロを通奏低音から独奏楽器に進化させるというアイデアはピアノ協奏曲の先駆けとなった。独奏チェンバロの数によって4種類の協奏曲、合計14曲をバッハは書いた。

1台チェンバロ協奏曲 BWV 1052〜1059
2台  〃         BWV 1060〜1062
3台  〃        BWV 1063,1064
4台  〃       BWV 1065

1台チェンバロ協奏曲 2番  ホ長調 BWV 1053 の原曲は オーボエ協奏曲 変ホ長調 か フルート協奏曲 ヘ長調 の可能性が高い。さらに、バッハは後にカンタータ BWV 169-1 ニ長調に転用した。つまり、一つの曲が、ホ長調 ー 変ホ長調 ー ヘ長調 ー ニ長調 で 記譜され演奏されたのである。

1台チェンバロ協奏曲 3番 ニ長調 BWV 1054は ヴァイオリン協奏曲 2番 ホ長調 BWV 1042 から編曲された。これはチェンバロの最高音の鍵盤が足りなかったために1音低い調に移調したと考えられる。ニ長調 −ホ長調


1台チェンバロ協奏曲 5番 へ短調 BWV 1056 の第2楽章は有名なラルゴである。第2楽章はへ短調の平行調の 変イ長調で歌われる美しい曲である。これはもともとオーボエのソロ ヘ長調のラルゴから転用したものである。バッハはカンタータ BWV 156-1 シンフォニアに転用する際も、ヘ長調を用いているが、1台チェンバロ協奏曲は変イ長調で書いた。変イ長調 − ヘ長調


1台チェンバロ協奏曲 6番 ヘ長調 BWV 1057 は ヴァイオリン協奏曲 4番 ト長調 BWV 1049 から編曲された。これもチェンバロの音域の問題によって1音低く移調したと考えられる。ヘ長調 −ト長調

1台チェンバロ協奏曲 7番 ト短調 BWV 1058 は ヴァイオリン協奏曲 1番 イ短調 BWV 1041 から編曲された。これもチェンバロの音域のための移調と考えられる。 ト短調 − イ短調

2台チェンバロ協奏曲 1番 ハ短調 BWV 1060 の原曲はオーボエとヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調と考えられ、ニ短調による復元も行われた。これも同じくチェンバロの音域を考慮して1音低い方向への移調と考えられるハ短調 − ニ短調


2台チェンバロ協奏曲 3番 ハ短調 BWV 1062  は 2台のヴァイオリン協奏曲 ニ短調 BWV 1043 から編曲された。これも同じく1音低くする移調である。 ハ短調 − ニ短調

3台チェンバロ協奏曲 2番 ハ長調 BWV 1064  は消失した3つのヴァイオリン協奏曲から編曲されたもので、3つのヴァイオリン協奏曲はブランデンブルク協奏曲 3番 ト長調のもとになった曲である。ハ長調 − ト長調

4台チェンバロ協奏曲 イ短調 BWV 1065 は ヴィヴァルディの ”調和の霊感” 作品3-10 4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ロ短調 から編曲したものである。 イ短調 − ロ短調


このように14曲のチェンバロ協奏曲の中で、移調されたものが9曲もある。むしろ移調をしなかったものの方が少ないのである。他に、オルガン協奏曲、クラヴィーア協奏曲にも、編曲の際に移調したものが存在する。
上記のチェンバロ協奏曲の移調例は当時よく使用された調ばかりである。当時ほとんど使用されなかった遠隔調は無いも等しい調であった。遠隔調を含むWTC(平均律クラヴィーア曲集)が、移調によって作られた遠隔調の作品を含むことも無理からぬことである。