クラシック・ミュージック・アーカイブは一日5曲まで無料で聴ける世界最大の音楽サイトです。このサイトはMIDIファイルが多いので、Live Recと表示されたアコースティッックなものを探してお聴きになることをお勧めします。2000人余りの作曲家の中からお好きな曲を選ぶことができます。
http://www.classicalarchives.com/intro.html
以下の手順でお聴きください。
Access rules → Register here → Name等の登録 → J.S.Bach → BWV 846〜869
「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」→ Free PLAY

バッハ「平均律クラヴィーア曲集」については ランドフスカ、ヴァルヒャー、フィッシャー、グレン・グールド、レオンハルト等、キラ星のごとく沢山の定番CDがありますが、これらを無料で聴くことは出来ません。5曲まで無料のサイトではタウシッグ(Peter Taussig)が、いささか珍しい方法で演奏し、録音した「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」を聴くことができます。タウシッグのCDを国内で手に入れるのは困難です。

まず、演奏者のタウシッグについて簡単にご紹介しましょう。彼は1944年にチェコスロバキアで生まれ、イスラエルで育ちました。7歳から音楽を始めコンサートやラジオのオンエアで早くから才能を発揮しました。その後カナダに移り住んでトロントの大学でピアノを学び、ソリストとして、またオーフォード弦楽四重奏団のメンバーとして活躍しました。トロント交響楽団やバンクーバー交響楽団との共演、カナダ放送協会での仕事などをしました。グレン・グールドやガーディナー等との仕事も行い、
ストラットフォード音楽祭の音楽監督も務めました。

順風満帆であったタウシッグですが、やがて骨関節炎が原因で右手が思うように使えなくなります。しかし、彼は諦めずに、左手だけで全く新しいレコーディングテクニックに挑戦し始めました。それは亡き友であるグレン・グールドがコンサートよりも録音を好み、録音の時代が到来することを予見していた、まさにその足跡を継ぐ仕事となりました。彼はコンピュータ制御のグランドピアノを使って左手だけで多重録音の「平均律クラヴィーア曲集」を完成させました。自動演奏ピアノを進化させた形の Yamaha Disklavier Pro を使って絶妙な多重録音を行い、グランドピアノのアコースティックな音で再生しています。Yamaha Disklavier Pro を使っての録音には賛否両論あるでしょうが、タウシッグのパフォーマンスは鑑賞に堪えれるものだと思います。

鍵盤楽器奏者にとって、フーガを1声づつ弾くことは、非常に的を得たアプローチです。鍵盤楽器奏者は一人で複数の声部を弾くのが当たり前だと思っていますが、管弦楽器や声楽は1声しか受け持たないのが当り前です。鍵盤楽器奏者は一人で全声部を弾く醍醐味を味わえるのですが、その反面、複数の声部を正しく弾くには高度なテクニックが必要です。コンピューター制御のピアノを使えば、1声づつ弾くことが可能になり、テクニック的な負担は軽減されます。しかもコンピューター制御のピアノは再生時にキーコントロールが出来ますので、簡単なハ長調で弾いて、それを難しい調で再生することも可能です。

自動演奏ピアノ技術の最先端としてはウォーカー氏率いるゼンフ・スタジオが第3の音楽メディアとして注目を集めています。ゼンフ・スタジオはグレン・グールドの「ゴールドベルク変奏曲」1955年版モノラル録音を約1年前にYamaha Disklavier Pro を使って再創造しました。グールドの1955年版はバッハ演奏に新しい形を作り上げて世界中から熱狂的に絶賛された演奏で、アルバムは発売以来一度も廃盤になっていない歴史的名演です。ゼンフ・スタジオはグールドのモノラル録音を圧倒的な精度で解析してデータ化し、ヤマハのコンサートグランドで自動演奏させました。それはあたかも透明人間と化したグールドが、グランドピアノを弾いているかのような衝撃を与えました。その時に使用したピアノはグールドの調律師を務めたエドクイスト氏の指示を仰いだという念の入れようでした。生きていれば75歳になるグールドがこれを聴いて何と言うでしょうか。この再演のCDは国内版でも聴くことができます。

ゼンフ・スタジオの驚異的な技術はこれらのプロセスを更に進化させて、生前のグールドが一度も演奏したことのなかった曲の、「グールド的な」演奏スタイルのテンプレートを作ることまで将来的には考えているそうです。これにはいささか、やり過ぎの感を持たれる方あると思いますが、エンジニアリングと音楽の学位を合わせ持つウォーカー氏はじめ、有能なゼンフ集団の将来に期待しましょう。
グールドはキャリアの途中からコンサート活動をドロップアウトして、レコーディングに芸術家の生命を賭けました。ゼンフ・スタジオやタウシッグもグールドと同じ道を更に進化させていると言えるでしょう。