音部記号とは5線譜の一番最初に書いてある記号で音符の読み方を決定するものです。5線上の音符の位置が同じでも音部記号ぶよってその読み方は変わってきます。

「グィードの手」以降13世紀頃までは音符の5線上の位置と、ドレミと、実際に鳴る音とは無関係でした。昔の作曲家は定旋律を伝統的に記譜されてきた音高で書き、ピッチは自由」でした。ローマカトリック聖歌集では現在に至っても尚、旋律は絶対音高とは無関係です。

14世紀頃になるとト音記号、ハ音記号、ヘ音記号が定着してきます。
ト音記号は「ト」の音、ハ音記号は「ハ」の音、ヘ音記号は「へ」の音の位置を5線上に指定するものです。ハ音記号はバッハの自筆譜によく見られるものですが、現在のピアニストにはほとんど無縁のものです。何故ならばバッハがハ音記号で書いた作品であっても現在はト音記号とヘ音記号に書き直した出版楽譜を使って弾くからです。

次にト、ハ、ヘ音記号をそれぞれ見ていきますが、5線は下から順に第1線、第2線と数えます。
ト音記号はソルミゼーションの「Sol」の「s」の文字を象形化した形で、第2線が「ソ=1点g」 であることを示します。ト音記号は高音部記号であり、別名ヴァイオリン記号とも言います。

ハ音記号は反対向きのCの文字を上下に2つ連ねたもので「ド=1点c」の音を示します。ハ音記号の位置が第1線にあるものをソプラノ記号、第2線がメゾソプラノ記号、第3線がアルト記号、第4線がテノール記号と言い、c の文字の位置によって4種類存在します。

ヘ音記号はFという文字の2本の横線が2つの点に変わったもので、2つの点の間が「ファ=f」 であることを示します。ヘ音記号の点の位置によって2種類あり、第3線にあるものをバリトン記号、第4線にあるものをバス記号と言います。単にヘ音記号と言うときはバス記号、低音部記号を指します。

音部記号の種類はト音記号1つ、ハ音記号4つ、ヘ音記号2つ、全部で7種類の読み方があることになります。ト音記号1種類だけでもなかなか読めない初心者にとって7種類もの音部記号を読むのは大変な負担です。初心者のみならず、ピアノ教師でもハ音記号などは難しく感じるものです。7種類もの音部記号があるにもかかわらずト音記号とヘ音記号の2種類しか使っていないということは実は移動ド読みの盲点なのです。このことについて次に説明しましょう。

まず「1点c=ド」を7種類の音部記号で記譜してみましょう。「1点c=ド」が下加線の位置にくるのがト音記号(ヴァイオリン記号)、第1線にくるがソプラノ記号、第2線がメゾソプラノ記号、第3線はアルト記号、第4線はテノール記号、第5線はバリトン記号、上加線はヘ音記号(バス記号)となります。
こうして見てみると私たちは「1点c=ド」が下加線にくるト音記号と、上加線にくるヘ音記号の両極端の2種類だけで普段、楽譜を読んでいることがわかります。

ではここでト長調の曲を移動ド読みする場合を考えてみます。ト長調は第2線の「ト=g」を「ド」と読むのですから、音部記号に当てはめると第2線が「ド」になるメゾソプラノ記号で読むことになります。メゾソプラノ記号で読んで弾くことができて初めてト長調読みができると言えます。ハ音記号の一種であるメゾソプラノ記号をすらすら読めるピアノ教師はほとんどいません。ということはト長調読みがすらすら読めるピアノ教師がほとんどいないということです。通常、ト音記号とヘ音記号の2種類の音部記号しか読まないピアノ教師が果たして移動ド読み出来ると言えるのでしょうか。しかも速いテンポで沢山の和音を移動ド読みできるはずがありません。

ハ長調はト音記号(ヴァイオリン記号)読み、ホ長調はソプラノ記号読み、ト長調はメゾソプラノ記号読み、ロ長調はアルト記号読み、ニ長調はテノール記号読み、ヘ長調はバリトン記号読み、イ長調はヘ音記号(バス記号)読みです。以上7種類の音部記号が自由に読める人だけが、本当の意味で移動ド読みができる人言えるのです。

ルソーが考案した数字譜について、ルソーが最も大きな利点として上げたのは「移調と音部記号を廃止した」ということでした。
イコール式もルソーの主張である「移調と音部記号を廃止」しました。イコール式は音部記号をト音記号とヘ音記号の2種類しか使わずに、しかも移動ド読みが簡単にできる方法です。その方法とは従来の5線記譜法を使って、ハ長調とイ短調の2つのモードに移調することです。ハ長調とイ短調の2つの調だけは固定ド読みと移動ド読みが重なります。等しくなるという意味からイコール式と名付けました。
イコール式の楽譜は移動ド読みする必要がありません。そのまま読むだけで移動ド読みができるので、音の機能を理解し易くなります。
イコール式の鍵盤楽器教授法は安易な固定ド読みによる教授法に警鐘を鳴らし、ハ長調とイ短調だけで音楽の構造を分りやすく理解できるように考案したものです。