音大受験生に馴染みのコールユーブンゲンですが、歌う前に序文を読んでみましょう。
コールユーブンゲンは1875年、ミュンヘン音楽学校の合唱練習書として公刊されました。合唱指導の任を委ねられたヴュルナーは音楽的目標到達のために3つの段階を定めて練習曲を作りました。
第1級・・音楽上の基礎学習、音程を正しくとる練習およびリズム練習
第2級・・多声的合唱の階名唱法、歌詞のある多声的唱歌の練習
第3級・・極めて難しい合唱の階名唱法、無伴奏大合唱曲の学習
わが国ではこの中から第1級のみをコールユーブンゲンと称して用いています。

ヴュルナーは旋律的進行、リズム、音程、和音などを楽器の力を借りずに表現させる練習として序文の中で次のように書いています。
「音程練習や和音練習は楽器の助けなしに行うべきである。階名唱法はまず伴奏なしで稽古させ最後になって始めて伴奏をつけるべきである。しかもその時、歌うべき音を(メロディー)をピアノでいっしょに奏してはならない。平均律に則って調律されるピアノを頼りにして正しい音程は望まれない」と。

ここから読み取れることはコールユーブンゲンが書かれた1875年の時点で既に平均律のピアノが一般的に使われており、その平均律の音程に則って歌うと正しい音程が得られないと認識されていたということです。そしてもう一つ重要な点は、階名唱法(移動ド)で歌うと書いてあることです。
正しい音程を得るためには平均律のピアノに頼らず、自分の耳で取ること、そして正しい音程は階名唱法(移動ド)によるべきだと言うのです。

続いて和音練習についてヴェルナーは「いわゆる困難な調と平易な調という分け方は当然意味のないことである」と書いています。この言葉の意味するところは何調であろうと、階名唱法(移動ド)ならば長調の主和音は常に「ドミソ」と歌うのですから、困難な調と平易な調という分け方は当然意味がないということです。
もし音名唱法(固定ド)で歌えば、ハ長調の主和音は「ドミソ」と平易な調ですが、嬰ヘ長調は「ファ♯ラ♯ド♯」と困難な調になるというわけです。

目次の第2級「多声合唱の階名唱法」も、第3級「極めて難しい合唱の階名唱法」も徹頭徹尾、階名唱法であり、ヴュルナーは音名唱法(固定ド)を全く用いないのです。

これほど明確にコールユーブンゲンの正しい使い方が指示されているにもかかわらず、わが国では序文に反する使い方、教授法が氾濫しています。
コールユーブンゲンを歌う練習に平均律のピアノで音取りする人が少なくありません。
さらに音名唱法(固定ド)で、絶対音感を自慢げ歌う人も多いのです。
絶対音感は音楽と全く無縁の能力ですが、絶対音感崇拝がもたらした日本独特の悪癖と言わざるを得ないのです。
作曲家ヴェルナーの意図に反した使い方でコールユーブンゲンを練習し、無事に音大に合格しても、真の音楽家にはなれないでしょう。

イコール式の鍵盤楽器教授法は階名唱法(移動ド)による教授法です。
コールユーブンゲンを作曲したヴュルナーの意図を汲み、階名唱法(移動ド)にこそ音楽の生命が存在すると考えています。
だからこそ、バッハの《平均律クラヴィーア曲集》をハ長調とイ短調に移調したのです。

《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》 は鍵盤作品の最高傑作を音楽生命の原点に立ちかえって学ぶ助けとなるでしょう。