バッハは数の象徴による数学的な計画を音楽のなかに織り込みました。
数の象徴とは例えば以下のようなものを言います。
3=三位一体
5=5本の指、人間
6=天地創造にかかった日数
7=安息日、聖なる
10=十戒
11=律法の拒否、11人の弟子
12=信徒、教会
13=ユダが裏切ろうとしていた時食卓には13人いたことから罪と災い
14=バッハ

14がバッハ(Bach)になるのは漢字の画数を足して総画が14になるというのに似た考え方です。ローマ字に画数があるのは変ですが、AからZまでの26文字を1から順に番号を付けていき、最後のZが24になります。ローマ字は26文字あるので、IとJは両方とも9画、UとVは両方とも20画と数えて最後のZが24画になるように帳尻を合わせます。この方法でバッハ=BACHを数えると、B=2,A=1,C=3,H=8ですから合計すると14ということになるのです。

バッハの代表作である《平均律クラヴィーア曲集》に網羅されている理論上考えられるすべての調の数は24、ローマ字による画数も24と共通しています。

また、バッハは《平均律クラヴィーア曲集》の最初のフーガを14個の音符からなる主題(1巻1番
C−Dur フーガの主題)で開始することによって第1巻の頭に自分の印章を押しました。実際の印章にもバッハは14粒の真珠を使っていました。

「イギリス組曲」「フランス組曲」「パルティータ」などは神が天地を創造したまいし6日間に敬意を表すためにそれぞれ6曲がセットになっています。

コラール前奏曲「これぞ聖なる十戒」では主題を10回登場させています。

またバッハは意味のある数字をたしたりかけたりした数字も象徴として用いました。
例えば21は「聖なる7」の3倍した数ということで「聖なる」という言葉を3回繰り返すという意味になります。
《平均律クラヴィーア曲集》の1巻24番、2巻1番、2巻24番といったけじめのフーガを7×3=21個の「聖なる聖なる聖なる」音符で構成した主題で結んでいます。
さらにある音楽が64小節で作られている場合は Kyrie(10+23+17+9+5=64)であるなど 、音楽の小節数と聖書の何章何節との関連や詩編の番号との関連による数の象徴は果てしなく続きます。

数の象徴の歴史についてはシュミット著『聖書における数』、エンドレス著『数の神秘と魔術』、ヤンゼン著『バッハ数の象徴』、フェルトマン著『数の神秘』、スメント著『バッハその名の呼びかた』『ルターとバッハ』、タトロー著『バッハの暗号 数と創造の秘密』などに詳しく述べられています。

ニッセンはバッハ年鑑(1951年)に書いた論文のなかで、バッハが平均律クラヴィーア曲集を「神の聖霊と天地創造で始まり、死せるキリストの復活で終わるキリスト教の世界のドラマを音楽で描いたもの」にするつもりであったと主張しました。

数の象徴がバッハの音楽に対してどの程度本質的なかかわりを持つかは研究者の意見が分かれるところですが、スメントらによって新たな研究分野が開かれたことは確かです。しかし数の象徴というものがあまりに際限なく広がってしまったために単なる「こじつけ」と見なす研究者もいます。例えばバッハ研究所に勤めたこともあるヴェントは「バッハと13」という挑戦的な題名の論文で何でもこじつけられるということを証明しようとしました。