楽典の音程問題を考えてみましょう。
「ハ−変イ」は短6度、「ハー嬰ト」は増5度です。
楽典では短6度は協和音程、増5度は不協和音程になっています。
ピアノで弾けば同じ鍵盤なのに、協和音と不協和音があるとは不思議に思われませんか。
耳で聴けば同じ和音、目で見れば異なる和音というわけです。

また、「変ロ」から完全5度上行した「ヘ」は協和音程ですが、「変ロ」を異名同音の「嬰イ−ヘ」にすると減6度という和声法上最も悪い不協和音程になってしまいます。

音程は周波数比が簡単な整数比になるほど協和に感じ、複雑な比になるほど不協和に感じるという性質があります。

平均律の「変イ」と「嬰ト」はどちらも同じ 800 セント、純正では「変イ」= 814 ,
「嬰ト」=773 と異なる黒鍵が2個必要になります。
短6度の協和音「ハー変イ」が純正の協和音として耳に聞こえるためには
「変イ」=814でなければなりません。
「変イ」=814の時、周波数が5:8という簡単な整数比になり真の協和音となります。
増5度の不協和音「ハー嬰ト」は簡単な整数比にはなりません。

平均律は「変イ=嬰ト」=800ですから、純正の短6度より幾分狭いが何とか協和音に聞こえるという程度です。しかし純正のような簡単な整数比にはなりません。

平均律では短6度だけではなくすべての音程が、何とか我慢できる程度ではあるが狂っているのです。
平均律で狂っていないのは1:2のオクターヴだけです。

私たちは譜面上で見た短6度が、平均律でもって演奏されているとおりで、美しく協和して響いているのだと耳に信じ込ませているのです。

最後にリヒテルの言葉を引用します。
「それは調律師の仕事だ。聖ペテロのように水の上を歩けると信じて与えられたピアノを弾けばよい。そうでないと沈んでしまう。ピアノが好きではないのかと聞かれたら、ピアノより音楽の方が好きだと答える」