純正な音程が簡単な整数比になることから、音程の計算はもっぱら、掛け算と割り算で行いましたが、イギリスの数学者エリス(1814生)はこれを足し算と引き算で行う方法を考案しました。

エリスの方法とは半音の周波数比が2の12乗根になるという等分平均律のための計算法です。2はオクターヴの整数比を表し、12は半音が1オクターヴに12個あることを表しています。2の12乗根とは、2のルート12であり、ある数を12回掛けると2になる数ということもできます。そのある数とは1.059463094.......という無理数になります。
1.059×1.059×1.059......これを12回掛けると2になります。

今なら計算機で簡単に2の12乗根が出せますが、中世の頃にこれを筆算で出した人もいました。一番最初が中国の朱載育(1596生)、続いてメルセンヌ(1636生)、日本の中根元圭(1692生)などが計算しました。これは12
等分平均律の計算としては成立していましたが、機械を使わずに人間の耳だけで正確に無理数的調律をすることは出来ませんでした。そのため人間の耳で調律し易い不等分音律が使われました。
少なくともバッハが歴史的な「平均律クラヴィーア曲集」を編纂した1722年の時点では12等分平均律を人間の耳で調律していたとは考えにくいのです。何故ならばバッハが「15分で調律する」と言ったからです。人間の耳だけで簡単にたった15分で調律できるのは不等分音律であったと考えるのが妥当です。

バッハの死後約100を経てからエリスによって考案された平均律セント値は、皮肉なことに、古楽の不等分音律の音程計算にも利用されるようになりました。その理由は掛け算や割り算を使う周波数比率の計算が、セント値を使えば足し算と引き算で簡単に計算できるからです。

セント値を使うことによって、音律は1オクターヴが1200段の階段と考えることができるようになりました。平均律は100段ごとに半音の標識が規則正しく立っている状態です。スタート地点Cから−−−100段目にC#−ー−200m段目にD−−−300段目にD#の標識、更にどんどん上がって1200段目が1オクターヴ高いCになります。
不等分音律のミーントンでは76m段目にC#ーーー193段目にDーーー310段目にD#の標識があることになり、平均律とは相当違うことが分ります。
このように不等分音律は1オクターヴの配分の仕方によって無限の音律が考えられます。