最近、バッハ愛用カロフ聖書のファクシミリ版 (バッハの書き込み入り) が発売されて話題を呼んでいる。
輸入総代理店の教文館 (東京銀座)で5月6日まで展示販売中。全3巻79万円。

出版社はオランダのファン・ヴェイネン社で、教文館によると初刷は100部とのことである。
編集者はユトレヒト大学のクレメント教授。彼は音楽学、オルガン、神学を学び博士号取得。学際的なバッハ研究者として知られる。

クレメント教授は2017年7月にケンブリッジ大学で開催されたバッハネットワーク対話会議で、バッハの書き込み入りカロフ聖書を披露してくださった。私もそこに参加していたので、カロフ聖書を実際に見ることができた。
お披露目の様子をビデオでどうぞ。カロフ聖書3巻を箱から取り出しておられるのがクレメント教授である。

興味深そうにカロフ聖書を見ていた参加者は世界のバッハ研究者たちであるが、その中から日本語で読める音楽書の著者をあげてみると、
『バッハ全集第12巻』 小学館・・・・資料批判原典版の泰斗 富田庸著
『バッハの暗号』 青土社・・・・ミセス・バッハの異名をとる ルース・タトロー著
『バッハの鍵盤音楽』 小学館・・・・・ 演奏家としても優れた シューレンバーグ著
『説教者としてのJ.S.バッハ』 教文館・・・・・ 礼拝音楽の大御所 ロビン・リーヴァー著


私はこのバッハネットワーク対話会議で 《 イコール式 バッハ 平均律クラヴィーア曲集 》 について発表した。平均律クラヴィーア曲集全48曲をハ長調とイ短調に移調して出版したことは世界で初めての試みであり、固定観念にとらわれない「やわらかなバッハの会」の活動が驚きと興味を持って迎えられた。そして 「やわらかなバッハの会」 はいつしか 「バッハの啓蒙活動」 と呼ばれるようになった。啓蒙というと少し上から目線になるので、私自身はバッハの音楽を広める活動と表現している。

「 やわらかなバッハの会 」 は誰でも簡単にバッハの音楽に親しみ、演奏できるように WTC ( 平均律クラヴィーア曲集 ) をアンサンブルで演奏したり、移調したりしている。一人1パートを担当すれば声部の動きがよくわかる。鍵盤楽器の人は一人で多くの声部を弾くものと思い込んでいるが、他の楽器はどれも一声だけ演奏することが多い。むしろ一声しか演奏できない楽器の方が大半である。アンサンブルをやっていると、自分のパートと他のパートと全体の音を聞くということが要求される。慣れてくるとすべての音が聞こえ、自分も世界も一体となる境地に入る。この訓練を積んでから一人で全パートを弾くという方法が声部の独立を学ぶ最短距離である。

バッハの音楽は自ら演奏してみることによって本当の調和、霊感を体験できるのである。バッハの音楽はステージで華々しく弾くためのものではなく、心の癒しのために弾くものである。移調に関する説明は音律論から始めなければ理解は不可能なのでここでは省く。拙著 『やわらかなバッハ』 春秋社 を参照していただきたい。
それではバッハネットワーク対話会議の発表者全員が出て来るムービーをどうぞ。1分23秒のところ、ピンクの服を着て発表しているのが私である。