《G線上のアリア》 は 《管弦楽組曲第3番 ニ長調》 の中の一曲を、ヴァイオリンとピアノ用に編曲して広く知られるところとなった。編曲にあたってニ長調の管弦楽組曲をハ長調に移調した。このような後世の音楽家によるバッハ作品の移調や編曲は枚挙に暇がない。
しかし、今回は、後世の音楽家によるものではなく、バッハ本人が自身の手で移調した作品だけを挙げる。

BWV 232 《ミサ曲 ロ短調》 の第17曲「十字架につけられ」 ・・・・・ へ短調 → ホ短調
  カンタータ 12番 「泣き、嘆き、憂い、怯え」の第2曲 からミサ曲ロ短調の「十字架につけられ」に転用する  際にバッハはへ短調からホ短調に移調した。

BWV 243  《マニフィカト ニ長調》 ・・・・・・・ 変ホ長調 → ニ長調
  クリスマス礼拝用に最初は変ホ長調で作られたが、他の祝日にも演奏できるものに作りる際に、トランペッ  トがよく響くニ長調に移調した。変ホ長調は♭3個、ニ長調は♯2個、この2つは非常に隔たった調であるが、  バッハは移調した。

BVW 515 《パイプにおいしいタバコを詰めて》 ニ短調 → ト短調
  息子のハインリヒが作ったニ短調の旋律(BWV 515a)を母親のアンナ・マグダレーナが筆写し、バッハがバ  スを加筆する際にト短調に移調した。

BWV 594 《オルガン協奏曲 ハ長調》 ニ長調 → ハ長調
  ヴィヴァルディの《ヴァイオリン協奏曲 ニ長調》 を編曲する際にハ長調に移調した

BWV 831 《フランス様式による序曲 ロ短調》・・・・・ハ短調→ロ短調
  この曲は 《イタリア協奏曲 》 BWV 971 とともに 「クラヴィーア練習曲集第2部」を構成する作品。ヘ長調の   《イタリア協奏曲》と三全音の関係におかれているが、これは両者の対立を強調するための、出版時の工夫  と思われる。なぜなら、アンナ・マグダレーナの手で書かれたハ短調の筆写譜があるからだ。
  
BWV 846 〜 893 《平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第2巻》
  全曲が一度に書き下ろされたものではなく改訂の手を加えて編纂されたものである。曲集を編纂するにあ   たり、移調して収録された曲もみられる。主として遠隔調の曲がそうである。先に簡単な調で作曲したものを  半音上げるか下げるかの移調を試みたものが多い。

BWV 946 《フーガ ハ長調》 ・・・・・・・変ロ長調 → ハ長調
  主題はアルビノーニのトリオ・ソナタ 変ロ長調からとられた。

BWV 976 《協奏曲 ハ長調》・・・・・・・・ホ長調 → ハ長調
  ヴィヴァルディの 《調和の霊感 第12番》、ヴァイオリン協奏曲とチェンバロとオルガン用に編曲した。その  際バッハがハ長調に移調した。

BWV 978 《協奏曲 ヘ長調》 ・・・・・ト長調 → ヘ長調
  同じく 《調和の霊感》からの編曲

BVW 1030 《オブリガート・チェンバロとフルートのためのソナタ ロ短調 》 ・・・・・ト短調 → ロ短調
  移調の際と思われる3度音程の書き間違えが自筆総譜に散見されることから、もとはオーボエ用としてト短  調で書かれていた可能性が高い。 

BWV 1053  《1台のチェンバロのための協奏曲 第2番 ホ長調》 ・・・・・変ホ長調 → ホ長調
  バッハは 1726年に 《オーボエ協奏曲 変ホ長調》 を一端、ホ長調のオルガン協奏曲に編曲し、更に加   筆修正してチェンバロ協奏曲として完成させた。

BWV 1056 《チェンバロ協奏曲 第5番 へ短調》 ・・・・ト短調 → へ短調
  2楽章の有名な美しいラルゴはへ短調の平行調の変イ長調である。この協奏曲は2つの協奏曲からの組み  合わせで成立したものである。両端の速い楽章はおそらくヴァイマル時代に書かれたト短調のヴァイオリン  協奏曲にさかのぼる。これに対して2楽章のラルゴ変イ長調はカンタータ 156 番 「わが片足すでに墓穴に  入りぬ」の第1曲「シンフォニア ヘ長調」のオーボエのソロに豊かな装飾を加えてチェンバロ協奏曲に転用  した。その際ヘ長調から変イ長調に移調した

BWV 1057 《チェンバロ協奏曲 第6番 ヘ長調》・・・・・ト長調 → ヘ長調
  この曲は《ブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調》 のヴァイオリンパートをチェンバロに書き換えたもので  あるが、その際ト長調からヘ長調に移調した

BWV 1060 《2台のチェンバロのための協奏曲 ハ短調》 ・・・・・ニ短調 → ハ短調
  原曲は 《オーボエとチェンバロのための協奏曲 ニ短調》である 



<バッハ自身の手による移調が疑われるもの>

BWV 539  《前奏曲とフーガ ニ短調》・・・・・ト短調 → ニ短調
  BWV 1001《無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番》のフーガの編曲に、手鍵盤のみによるプレリュードを加え  た

<アンナ・マグダレーナ・バッハ の手による移調>

 BWV 82  《カンタータ 82番 われは満ち足れり》 ・・・・ハ短調 → ホ短調
    レチタティーヴォ 「Ich habe genug!」はハ短調をホ短調に移調して 《アンナ・マグダレーナ・バッハの     ためのクラヴィーア曲集》に収めた。
    同じく アリア 「Schlummert ein,ihr matten Augen」 は変ホ長調からト長調に移調して同曲集に収め     た
以上