「ドーミ」は「ドレミ」と全音が3つ分だから長3度という。

では「 ド」 の代わりに 「シ♯」を使って「シ♯ーミ」と書くとどうなるか?
ピアノには「シ」の ♯ たるべき黒鍵がないので「シ♯」は白鍵の「ド」になる.
「ド」と「シ♯」は 異名同音である。
従って「ドーミ」と「シ♯ーミ」はどちらも同じ音程だ。あくまで鍵盤上では。

実は「ドーミ」と「シ♯ーミ」は、鍵盤上では同じ音程であっても、音楽理論上では異なるのだ。
「ドーミ」は長3度、「シ♯ーミ」は減4度である。長3度と減4度は鍵盤上では同じ鍵盤を弾くしかない。
しかし音楽理論上では異なる音程であるし、声楽やヴァイオリンなどは「ドーミ」と「シ♯ーミ」を異なる音程でもって弾き分けることができるのだ。

音楽理論上では、長3度は協和音程、減4度は不協和音程である。同じ音程なのに、一方は協和、他方は不協和。
このような音楽理論と鍵盤上の音の矛盾が存在する。

ここで「シ♯ーミ」の減4度を含むフーガを探してみると 《平均律クラヴィーア曲集》の第1巻4番、ハ短調フーガのテーマが思い浮かぶ。
減4度音程 「シ♯ーミ」を含むテーマは重苦しく、十字架を背負って喘ぎながら歩く姿などと考えられがちである。
しかし鍵盤楽器で弾くと、重苦しいはずの減4度が、同時に明るい長3度でもあるのだ。かくのごとき大きな矛盾が鍵盤楽器には存在する。

バッハが独自の調律法でもって 《平均律クラヴィーア曲集》を演奏したとき、このテーマの減
4度をどのような音程で演奏したのか興味深い。
因みに主要な音律における鍵盤楽器の長3度=減4度のセント値を以下に示す。

中全音律・・・386セント(純正)
キルンベルガー機ΑΑΑ386セント(純正)
ヴェルクマイスター掘ΑΑ390セント
12等分平均律・・・・400セント
ピュタゴラス・・・・408セント

バッハの独自の音程はどの音律に近いのだろうか。バッハの音程が純正に近くても遠くても「ドーミ」と「シ♯ーミ」が同じ鍵盤である以上、同じ音程であることにかわりはない。

鍵盤楽器の同じ音程をして、長3度は明るい、減4度は重苦しいなどと区別するのは甚だ滑稽である。
今日のピアノが12等分平均律だから滑稽なのではない。
不等分音律の場合においても、長3度と減4度の音程は同じである。不等分音律においても長3度と減4度の違いを右顧左眄することは滑稽である。同じ鍵盤を弾くからである。
声楽やヴァイオリンならば、長3度と減4度を区別することができるが、鍵盤楽器は調律法の如何にかかわらず、区別することは不可能である。