「ハ長調」や「ト短調」というような「調」は、その「調」自体が、ある性格を持つと考えられてきた。あるいは今でもそう考えられている。12等分平均律の鍵盤楽器においてさえそのように考えている人は少なくない。

「調」自体の性格という時、現代では12 の長調と12 の短調があって、合計24の「調」の性格があることになっている。
24 もあるとはいえ、音階の種類はたったの2つ、すなわち長調と短調である。

現代の主たる音階は長調、短調の2種類だが、その前身の教会旋法は違う。
11世紀にグィードという音楽理論家がいた。彼は4つの教会旋法が特有の性格をもつと考えた。
16世紀に至ってイオニア旋法とエオリア旋法が加えられ、6つの教会旋法が固有の特徴をもつと考えられた。
その特徴的な性格はプリンツ(1641〜1717)によると以下のようになる。

イオニア旋法・・・・・・・・陽気で活発
ドリア旋法・・・・・・・・・・温和,敬虔
フリギア旋法・・・・・・・・非常に悲しい
リディア旋法・・・・・・・・過酷、不親切
ミクソリディア旋法・・・・陽気、いくらか穏健
エオリア旋法・・・・・・・・穏健、優しい、いくらか悲しい

[ キルンベルガー著 『純正作曲の技法』 東川清一訳 より ]

上の教会旋法は音階構造が6種類それぞれ違う。
繰り返すが現代の主たる音階構造は長調と短調の2種類である。

教会旋法では、音階の開始音の如何にかかわらず、イオニア旋法ならばすべて「陽気で活発」な性格を持つと考えられた。イオニア旋法の音階は現代の長調の音階と同じである。
ならばである。
音階の開始音の如何にかかわらず、長調ならばすべて「陽気で活発」な性格をもつと考えるのが当然である。

イオニア旋法で音階開始音が「ハ」なら○○の性格、「ニ」ならば○○の性格などと区別はしない。
しからば長調で音階開始音が「ハ」なら○○の性格、「ニ」ならば○○の性格などと区別するのは矛盾だ。

特に現在の12等分平均律の鍵盤楽器を演奏する我々が、音階開始音の違いだけで、「調」の性格を云々するのは無意味というものである。
「ハ長調」と「ニ長調」の違いは音階開始音の違いだけである。音階構造はどちらも長調で等しい。
12等分平均律の鍵盤楽器は音程が固定されているのだから、「ハ長調」と「ニ長調」の違いを見出すことは不可能というものである。