ハ長調を全長調の基本とするのがイコール式ですが、各調に対立してハ長調をとなえるのではありません。
ト長調結構、嬰へ長調結構、変ニ長調結構であります。

ハ長調はそのままで、簡単に階名読みができます。
従ってイコール式はよくその真髄に徹して分かってくるのです。

 真髄に徹してきますと、すべての長調は「ド」で終わるといった具合に、結局は一つであることが解ってくるのです。
そうなるとシャープ系のト長調もフラット系の変ニ長調に対して自他一体感を持ち尊敬を払うということになるのです。
ト長調も変ニ長調も全く争わないで、仲良く一つに手をつなぐことができるのです。

 つまりイコール式では、全ての調はただ一つの神から発した救いの放射光線と見るのです。
太陽の光は一色に見えるけれども、プリズムを通して見れば、美しい七色に分かれて見えるというのと同じことです。すべての音楽は神から放射した、ただ一色の白色光線がプリズムを通していろいろな調に分かれたものです。

音楽の白色光線は、古典から学んだ既成概念とか、作曲家の気質とか、楽器の特質とか、音域とかのプリズムを通して分散して出た七色の救いの光線であって、元は一つ、決して互いに争うべきではないのです。

 バッハはWTC(平均律クラヴィーア曲集)に、理論上考えられる24すべての調を網羅しました。
1番のハ長調から24番のロ短調まで半音ずつ上昇する順序で網羅されています。
しかし、バッハがこの順序で一気に作曲したわけではありません。
バッハは長い時間をかけて改訂に改訂を加えつつ、順不同て完成させました。

 改訂に改訂を加えた複雑な成立過程を見ると、いくつかの曲でバッハ自信が移調を試みたことがわかります。
例えば、ハ長調の早稿を嬰ハ長調に移調して編纂するなどの措置をとりました。
これは、ベーレンライター原典版 平均律クラヴィーア曲集第2巻 P.352 を見ると分かります。

 またバッハは、嬰ニ短調の曲を編纂するにあたって、最初にニ短調で作曲し、それから半音高く移調して嬰ニ短調を得るなどの措置をとったようです。
WTC(平均律クラヴィーア曲集)の世界的権威である富田庸の研究によると、半音高く、あるいは半音低く移調された曲は少なくないということです。
バッハ全集12巻(小学館)P.77 の「ロンドン自筆譜を記譜中に移調を試みたと考えられる根拠が修正箇所にみられるもの」富田庸 著 をご参照ください。

 平均律クラヴィーア曲集を編纂するに当たって、バッハ自身が移調した理由を考えてみると、バッハの目的が「調性格の確立」ではなく、理論上考えられる24の調を残らず網羅するという一点にあったからではないでしょうか。

ならば原調にこだわる必要はないでしょう。
イコール式は音楽の構造を深く理解し、バッハのフーガをより親しみやすいものにすることの方が大切だと考えます。

全調をハ長調とイ短調に移調した《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》 橋本絹代 編著 カワイ出版 をお試しください。