はるか昔、医学というものが未だなかったころ、人々は宗教や呪術に頼っていた。
呪術師が与える言葉、指示、薬草が医学へと発展していった。同時に呪術の儀式で木を叩くリズムが音楽へと発展していった。単調なリズムの繰り返しがトランス状態を呼び込み、呪術的儀式音楽となった。

古代ギリシャのピュタゴラスは偉大な数学者として知られているが、はるか昔、数学と音楽は同義だった。
そのピュタゴラスは音楽の基礎となる協和音程を数学的に解明した。
そして病気の原因が魂の不調和にあり、音楽は魂の不調和を調律すると唱えた。

医学の進歩とともに、次第に、病める人間の魂ではなく、臓器や数字しか診ない医学になってきた。
同様に音楽も12平均律という人工的なシステムで合理性を求め、人間の理性でねじ伏せるものになった。

はるか昔、音楽は宇宙の法則、目に見えない法則、形のない神、世界に遍満する神であった。
はるか昔の音楽はバッハの死とともに終焉をむかえた。
バッハの宗教性が最もよく表れているのは「平均律クラヴィーア曲集」だと思う。

病気を科学だけで治療することにおのずから限界があるように、西洋音楽も限界にきている。

「平均律クラヴィーア曲集」は魂の調律である。
人間の6兆の細胞は「平均律クラヴィーア曲集」によっていきいきと蘇る。
「平均律クラヴィーア曲集」はあらゆる経典を超越した経典である。
あまねく世界に神は存在し、あまねく世界に「平均律クラヴィーア曲集」は存在する。