マッテゾンとシューバルトの調性格を比べると対照的なものも幾つか存在する。
例えば、変ホ長調について、マッテゾンは「悲愴、深刻」と述べ、シューバルトは「愛情、三位一体」と、対照的な見解を述べている。

ここで変ホ長調にたいする他の論者の見解も調べてみよう。
以下に示すように、変ホ長調の普遍的な調性格は不明である。

クラーマー・・・静かな威厳、変イ長調で聞かれるような輝かしさを少しゆるがせにしている

コッホ・・・12の硬い調性(=長調)の中では最も使用されている調性、元来戦場の音楽に使用される音楽、例えばトランペット、クラリネット、ホルンなどはこの調性(Es管)に合わせて設計されているので戦場の調性と呼ばれる

シリング・・・・荘重で真剣

ダイムリング・・・確かな高貴さ、壮麗さ、鋭い響き

テンペルホーフ・・・華やかな

シュテファニー・・・高潔、変ロ長調と一層英雄的に高めた性格

ベック・・・・強い調性、戦う英雄の調性、

ミース・・・・非常に悲愴的

ロッホリッツ・・・鋭い

リューティー・・・深い情感を持つ調性、悩みをもたらす愛の苦悩をも表現する。
木陰の場面、墓の場面でも現れる、

      [H.ケレタート『音律について』竹内ふみ子訳 シンフォニアより]


《WTC》の中に見られる変ホ長調の性格は以下のとおりである。

第1巻第7番 変ホ長調プレリュードーー伸び伸びと奏されるプレアンブレムと自由なフゲッタとフーガ、大きな構成の真摯な曲、力強さ、男性的

 “  フーガーー無邪気な明るさ、軽快、優美な貴婦人
第2巻第7番 変ホ長調プレリュードーー繊細、ゆるやかに流れるように、明るさが翳りと同居、薄い音を重ねたジグ風

 “  フーガーー重々しく身を固めたコラールフーガ、情熱、活気あふれるテンポ


マッテゾンの言う「悲愴、深刻」と一致する楽章は見当たらない。さりとて、他の論者とぴったり一致してもいない。なぜなら4つの変ホ長調楽章はそれぞれ異なる情緒だからである。