調性格と言うとまずマッテゾンの名前が出ますが、調性格論者は他にも大勢います。
その一人、リューティーはモーツァルト作品の調性格について述べました。
Luthy : Mozart und die Tonartencharakeristik 1931

モーツァルトは調性の選択に関してバッハより禁欲的で、中全音律でよく使われた調、すなわちシャープやフラットの少ない調で作曲しました。
また長調に比べて短調が非常に少ないのもモーツァルトの特徴です。

モーツァルトが聴いていた響きは、現在私たちが耳にする等分平均律の響きとは全く異なることを、念頭において以下の調性格をお読みください。
等分平均律を前提に作られた作品はドビュッシー以降になります。


ハ長調 真実の調性、説教じみた教示、警告であり、同時に論理的観察の場麺では中立的立場を取り、感情の無い場面をより深化させる調性

ト長調 中立的な調性で、素朴で陽気な人間に使われる。生の喜びを素朴に心から表現するための調性である。

ニ長調 むしろ外面的な場面、喜び、軍隊の果敢さ、残酷さ、復習、グロテスクなブッフォ・アリア、序曲、男性の決断、動じないことを表現する。

イ長調 美しさ、輝き、高揚した生への実感、少し浮き浮きして、おどけて、優雅に、皮肉に、溢れる情緒、生きる喜び、

ホ長調 特別に個性的な調性、気高く気品に満ちた気分、グロテスクで辛辣と思われる場面、朝の気分

変イ長調 秘密に満ちた暗い調性

変ホ長調 深い感情を持つ調性、深い愛情ばかりでなく、悩みをもたらす愛の苦悩をも表現し、木陰の場面、墓の場面などでも現れる

変ロ長調 柔らかで夢想するような気分、慰め、同情、恋愛する人々。ユーモア、技巧的アリア。

ヘ長調 中立的な調性、女中のアリアにおいては素朴な人間が喜ぶ場面で使われるが、さらに内面的、憧れ、穏やかな気分、慰めになる場面を表現する。


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イ短調 本の少し悲しみが感じられるだけであり、イ短調はごく稀にしか使われない。

ホ短調 陰気で悲劇的な要素、憂鬱。極稀にしか使われない。

嬰へ短調 陰気で悲劇的な瞬間

嬰ハ短調 嬰へ短調と同じく陰気で悲劇的な瞬間

ヘ短調 魂の崩壊、うつろで絶望的。

ハ短調 不吉なもの、陰鬱な和音、荒々しい情熱、過度の恐怖、危険を描写する、闇の性格、陰鬱な死への思い、怒り、死へのぞっとする恐怖、悲劇的、痛み、絶望

ト短調 悲劇的な苦しみ、闇、最も深い憂鬱、絶望的な死への予感、苦しみ、途方にくれる、魂のひどい痛み、ナポリの6の和音と共に使われて最高の盛り上がりを示す。

ニ短調 多くの情緒の活動、超自然的な力、ぞっとさせる人間、あの世の恐ろしさ、陰鬱な気分、絶望と恐怖の描写、運命の重さ、不気味なもの。

[ケレタート著「音律について」竹内ふみ子訳]

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これを書きながら、同じ調性の中にこうも沢山の性格があっては、どれが調の性格なのか迷ってしまいます。
例えばニ長調では「喜び」と「残酷さ」という関連の無い言葉が一緒に記載されています。

リューティーだけを見ても迷いますが、マッテゾンの調性格論を見ると、ニ長調は「元来鋭く、わがままな調性で騒動や陽気で好戦的なもの、元気を鼓舞するようなものにおそらくもっとも適合するが、トランペットの代わりにフルート、太鼓の代わりにヴァイオリンが支配するならば、この硬い調性も繊細なものへの行儀の良い不思議な導き手となるであろう」とますます混乱してしまいます。

それだけではなく、シューバルト、シリング、フォーグラー、ミース、シュテファニー・・・・などが各人各様の調性格を述べているのです。

調性格とはいったい何者でしょうか。
不確実な調性格というものへのこだわりを一旦横に置いておきましょう。
ハ長調とイ短調に移調した「イコール式 バッハ平均律クラヴィーア曲集」
は音楽の正しい理解を支援します。