やわらかなバッハの会

先入観念にとらわれることなく、バッハの音楽に親しむ会です。
イコール式音楽研究所

2008年08月

モーツァルトの父の著書「ヴァイオリン教程」

レオポルト・モーツァルトは天才モーツアルトの父で、ザルツブルグ大司教宮廷副楽長を務め、ヴァイオリンや鍵盤楽器を教えていました。

彼は1756年、つまり天才モーツァルトが第7子として生まれた年に「ヴァイオリン教程」を著しました。

この著作はクヴァンツ、C.P.E バッハの著作を並んで18世紀の典型的なヴァイオリン奏法を示すものとして高く評価されています。

この「ヴァイオリン教程」の中から、音律について書かれている部分を引用します。

<クラヴィーアでは、変イと嬰ト、変ニと嬰ハ、変トと嬰へなどは同音であるが、それはTemperatur(調整)のせいである。

しかし、正しい音程比によると、♭によって低められた音はすべて、#によって高められた音よりも1コンマ高い。

つまり、たとえば変イは嬰トより、変ニは嬰ハより、変トは嬰ヘなどより高いのである。

ここでは良い耳が裁判官でなければならない。
もちろん初心者なら音程測定器の操作を教えてやるのもよいことであろう>

この著書の中で、変イと嬰トは正しい音程比から言うと高さが異なり、変イは嬰トより高いと教えています。

そして、最初の行でクラヴィーアでは変イと嬰トが同音、つまり同じ鍵盤であることをはっきりと指摘しています。

これに少し解説を加えると、ヴァイオリンは指で押さえる位置を微妙に変えることによって、変イと嬰トを異なる音として弾き分けることができますが、鍵盤楽器はこの2音が同じ鍵盤なので弾き分けることができません。

鍵盤楽器は片方を正しい音程比にすると、もう片方は非常に極端な音程比にならざるを得ないという不便な楽器です。
そのための妥協案として考案されたのが、どっちつかずの、どちらも正しくない音程に調整する方法です。

もし、鍵盤楽器で正しい音程比を追及しようとするならば、1オクターヴ内に12個
以上の鍵盤が必要です。
実際、1オクターヴに21個もの鍵盤がある純正調オルガンが製作されましたが、演奏困難なため普及することはありませんでした。

鍵盤楽器の調整法は、古典音律の時代を経て、19世紀も半ばを過ぎる頃になると、12等分平均律が台頭してきました。これは1オクターヴを12個の等しい半音に分割する合理的な方法で、現在殆んどの鍵盤楽器に採用されています。

現在の12等分平均律の鍵盤楽器は半音しか無いので、どこを取っても等しい音程、どこから始めても等しい音階、何調で弾いても等しい調性格です。
それにも関わらず、鍵盤楽器に調性格があるという妄想を抱いている人が少なからずいます。それには、主に2つの理由が考えられます。

まず第一は、ピッチの違いと調性格の違いを混同していることです。
12等分平均律ではピッチを上げ下げしても、音楽が平行移動するだけなので、音程関係は変わりません。
音程関係が変わったときにはじめて、調性格が変わるのですから、それは不等分音律においてしか起こらないことです。

第二は楽譜の調号に固定観念を抱いていることです。
それは楽譜の中に存在しているだけです。
楽譜は楽譜であって、単なる記号に過ぎず、音楽ではないのです。
音響としての調性格を存在せしめるためには、不等分音律の鍵盤楽器で弾かなくてはならないはずです。
しかし、多くのピアニストが平均律の鍵盤楽器を弾いています。

12等分平均律は無理数ですから、厳密にいえば等分ではないという理屈も言えないことはありませんが、その誤差をもって調性格とは言えないでしょう。

鍵盤楽器の調性格

音楽理論家たちの平均律についての見解をケレタート著「音律について」から引用してみましょう。

ミツラー:「平均律を前提とすれば、ただ高さによってのみ識別される12の調種には、2つの調性、長調と短調。即ちこの概念はむしろ旋法と捉えることができる」

アードゥルング:「平均律を選択した人には・・・調性格の本質では無い音高の違いを除けば、12の各長調には何の違いも感じられない。12の各短調も同じである。しかし、不均等音律を採用した人は、すぐに音程の大きさの違いに気付くであろう。私たちは調性の数だけ異なる性格について論じることが出来る」

キルンベルガー:「平均律によって実際何も得られないばかりでなく、非常に多くのものを失った。平均律は作曲家に長調にするか短調にするかの選択肢しか残さない」

ヘルムホルツ:「すべての半音が音階全体を通じて同じ大きさであり、すべての音が同じ音色を持っているときには、異なる調性の作品が異なる性格をを持つはずであると言う見解に対する根拠を示せない」

上記の理論家は平均律に調性格が無いと主調していますが、一方でドレーヴィスとリーペルは楽器によっては調性格の違いがあると主調しました。
例えばヴァイオリンの開放弦ではト長調、二長調、イ長調、ホ長調が示され、これらシャープ系の調性は「明るく、爽やかに、きりっと引き締まって聴こえる」がフラット系の調性は「霞がかかったように、くぐもった響き」に聴こえるというのです。

結論としては、楽器を鍵盤楽器に限定して考えれば調性格が無いと言えるのではないでしょうか。
バッハ定例会
第1日曜日 輪奏会17:00 PM
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<プロフィール>
やわらかなバッハの会 代表
新しい鍵盤楽器記譜法「イコール式」の創始者

子供の頃、父と一緒に、バッハのフーガをピアノ分担奏で弾くことによって、声部進行を直感的に学び取り
バッハのとりこになった。
これまで約400人のピアノレッスンを通じて、バッハのフーガを弾くことの重要性を認識し、初級者でもバッハ演奏を楽む方法を提案。

2007年 世界で初めての楽譜《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》カワイ出版 
2009年 音楽書『やわらかなバッハ』春秋社
2013年「やわらかなバッハの会」設立
2014年 バッハ礼讃音楽会 (於 旧県会議事堂) 毎年開催
2016年 バッハ・イン・ザ・サブウェイズ (於 新山口駅南北自由通路 )毎年開催
2017年 Bach Network UK 対話会議研究発表 (於 ケンブリッジ大学)
Prof.Yo Yomita (富田庸) 講演会「バッハを嗜む」主催 (於 山口大学)

イコール式とは「鍵盤楽器においてどの調も皆同じ」という意味です。
なぜなら12等分平均律の鍵盤楽器における調性とは、ただ高さのみによって識別される2つの旋法、すなわち長調と短調の性格だけに限られるからです。
12等分平均律は勿論のこと、不等分音律を前提に論じたマッテゾンでさえも調性格の恣意性を指摘しています。
異名同音、ピッチの変動、バッハの手による移調の試みなどを考慮すれば、《バッハ平均律クラヴィーア曲集》の中の難しい調を簡単な調に移調してまず親しむことが大切です。初級者は更にそれをアンサンブルで楽しむことが大切です。
やわらかなバッハの会は既成概念にとらわれず、自分自身の判断で音楽の本質を探究するところです。


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音楽の構造が良く解る










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<イコール式の意味>
*12等分平均律の鍵盤楽器においてはどの調も同じ(イコール)です *フーガの各声部は主従関係ではなく対等(イコール)です *12等分平均律の調律法はイコール・テンペラメントと言います *音名と階名が同じ(イコール)読み方です
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