やわらかなバッハの会

先入観念にとらわれることなく、自由にバッハの音楽を楽しむ会です。
イコール式音楽研究所

2008年05月

調性格 ### 嬰へ短調

嬰へ短調の調性格に対しては殆んどの調性格論者がひどく暗いイメージで捉えているようです。

マッテゾン・・・ひどい憂鬱、死に至るものとして偏愛された
シューバルト・・暗い調性、その言葉は悪意であり不満
シュテファニー・悲劇的と思わせる耳をつんざくような響き
リューティー・・(モーツァルトに関して)陰気で悲劇的な瞬間

(ケレタート『音律について(下巻)』竹内ふみ子訳、シンフォニア発行、1999年
P.136参照)

これらの調性格はバッハの時代に一般的だった中全音律などの不等分音律で演奏した場合の嬰へ短調の性格です。
不等分音律は調によって音階構造が違うので調性格が存在しました。

ところが現在の鍵盤楽器はほぼ100%が12等分平均律ですから、すべての調の音階構造が全く同じです。音階構造が全く同じであれば調性格も同じです。

調性格が皆同じで画一的ということは、言い換えると、平均律には調性格が存在しないということになります。平均律で演奏する場合(それは今日ではほぼ100%ですが)、嬰へ短調を他の調で演奏しても調性格は全く変化を受けません。

バッハの平均律クラヴィーア曲集全48曲をハ長調とイ短調に移調した
世界で初めての試み
イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集

ではここで「バッハ平均律クラヴィーア曲集」の中の嬰へ短調を見てみましょう。

1巻No.14 嬰へ短調はプレリュードが悲哀感というよりは厳粛な気分に満ちた2声のフゲッタ、フーガは苦悩を背負ったような重々しい主題が言い知れぬ深い楽想を表しています。

2巻No.14 嬰へ短調のプレリュードは静穏な伴奏にのって高貴でニュアンスに富んだメロディーが奏でられる曲集中屈指の傑作です。フーガはプレリュードと対照的に感情よりも知的な愉楽が高度化された本格的な3重フーガで、厳粛さの内にも大人の華やかさが感じられます。

「バッハ平均律クラヴィーア曲集」の中の嬰へ短調を調べると、調性格論者が述べたところのひどく暗いイメージと一致するものを探すとすれば、それは1巻のフーガだけが当てはまると言えます。その他の嬰へ短調は厳粛、静穏、大人の華やかさといったイメージで暗さは感じられません。

バッハは今日の平均律に非常に近い音律を用いることによって24すべての調を踏破することに成功しました。その前にフィッシャーが成し遂げた20の調を超える音楽史上初の快挙でした。

バッハが24すべての調を聴くに堪えるように自らの手で調律し終えた時、もはやそこには調性格と言えるほど調ごとの違いが存在しないことをバッハ自身が一番よく知っていたのではないでしょうか。

その証拠として一例をあげましょう。
それはバッハの手による移調です。
バッハは平均律クラヴィーア曲集第2巻No17のフーガ(As-Dur)を、ヘ長調の初期稿(Praeludium und Fughetta F-Dur BWV 901)のFughettaから短3度上の変イ長調に移調して平均律クラヴィーア曲集に収められました。(全音ベーレンライター版P.326
参照)

もしバッハの音律が、ヘ長調と変イ長調の間に調性格上の大きな違いがあるものならば、バッハはこのように離れた調に移調することを考えたでしょうか。曲の性格がガラリと変わってしまうような移調をしたでしょうか?
この他にもバッハが移調した例としては、ハ長調初稿から嬰ハ長調に、ニ長調初稿から変ホ長調になどがあります。(全音ベーレンライター版 P.352、P.354 参照)

現在の私たちはバッハ独自の音律より更に調性格が均一になった12等分音律で演奏しています。私たちのピアノにおいて調性格は実態の無いものになっているにもかかわらず、調性格が存在するかのように惑わされないようにしたいものです。
嬰へ短調の調号を消してイ短調で弾く方が音楽を正しく理解することができます。
固定ド読みで嬰へ短調の曲を読んで、それを鍵盤に移し変えるだけの演奏では音楽の正しい理解はできません。



調性格 ###### 嬰ヘ長調

嬰へ長調の調性格   ケレタート著「音律について」


#悪いイメージのもの
・マッテゾン・・・・稀にしか使用されないためまだ効果はよく知られていない

・ハイニヒェン・・・全く使用できないもの

フォーグラー・・・ロ長調よりも一層ひどく耳をつんざくような


#良いイメージのもの
・クラーマー・・・・高貴な誇りと崇高な誇りとが素晴しく混合された調整であり、聴く者を感嘆させる

・シューバルト・・・嬰ヘ長調ではなく、変ト長調の特徴を困難の克服、上り終えた丘の上での開放された呼吸にもたとえられる調性である

・シリング・・・・・嬰ヘ長調は変ト長調より一層明るく、鋭い調性でより強い情熱の表現に適している


#不明のもの
・ミース・・・・・・嬰ヘ長調は非常に多様である。変ト長調にもまた不変の性格は見つからない

・マルクス・・・・・この調性はエンハーモニック(両義的)な使用によって、不確実、疑わしいものに限定して使われる


嬰ヘ長調については悪いイメージものも、良いイメージのもの、不明のものが混在しており、共通するの調性格が見ありません。

これらのイメージは不等分音律で演奏した時の感じ方を記したものです。今日私たちが使用している平均律で演奏するとすべての調が同じ音階構造のため、調による違いが存在しません。

#が沢山ついた嬰へ長調もフラットのついた調もすべてが同じ調性格=調性格が無いのです。
それならば調号の無いハ長調とイ短調に移調する方が合理的ではありませんか。
それだけではありません。何調でも固定ド読みする従来の方法よりも、ハ長調とイ短調は音楽の正しい理解への道を開くのです。
イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集は全48曲をハ長調とイ短調に移調しました。イコール式


イコール式チラシ


バッハ平均律クラヴィーア曲集における嬰ヘ長調を見てみましょう。

1巻No.13嬰ヘ長調のプレリュードは軽く揺れ動くそよ風のような芳香を漂わせる2声プレアンブルム。続くフーガはピロードのように柔らかく美しい響きの中に浸っており、明るく愛らしく心ゆくまで音楽を楽しんでいるようです。

2巻No.13嬰ヘ長調は付点のリズムが一貫して流れるフランス序曲風のプレリュードは優雅な中に熱烈な張りをもっている。フーガは導音上のトリルで開始するという意気盛んなテーマと優美で親しみやすいガヴォット風の間奏をもつ円熟した対位書法です。

バッハ平均律クラヴィーア曲集に見られる嬰ヘ長調は優美、楽しさといった明るいイメージです。
しかし、これは嬰ヘ長調で演奏することによって明るいイメージになるのではありません。音楽自体が明るい曲想を持つのです。
バッハ定例会
第1日曜日 15:00 PM
第2金曜日 10:00 AM
第4土曜日 10:00 AM

第4回バッハ礼讃音楽会
日時:2017年7月30日(日)
午後2時
場所:山口県旧県会議事堂

富田庸講演会&公開レッスン
講演会:2017年9月9日 午後2時
公開レッスン:9月10日午前10時
場所:山口大学
大学会館1階大ホール
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<プロフィール>
鍵盤楽器の
新しい記譜法
「イコール式」を提唱

子供の頃、父と一緒に、バッハのフーガをピアノ分担奏で弾くことによって、声部進行を直感的に学び取った。爾来バッハの鍵盤作品の
とりこになった。

延べ400人の生徒のレッスンを通して、バッハのフーガを弾くことが音楽力を向上させる最も有効な手段であることを再認識した。
移調によって難易度を下げることで、ピアノの初心者も《平均律クラヴィーア曲集》に親しむことができる。

イコール式とは「鍵盤楽器においてどの調も皆同じ」という意味です。
なぜなら12等分平均律の鍵盤楽器における調性とは、ただ高さのみによって識別される2つの旋法、すなわち長調と短調の性格だけに限られるからです。
12等分平均律は勿論のこと、不等分音律を前提に論じたマッテゾンでさえも調性格の恣意性を指摘しています。
異名同音、ピッチの変動、バッハの手による移調の試みなどを考慮すれば、《バッハ平均律クラヴィーア曲集》の元調にこだわる必要は無くなります。簡単な調に移調して、まず親しむ方が大切なことです。
やわらかなバッハの会は既成概念にとらわれず、自分自身の判断で音楽の本質を探究するところです。
橋本絹代 著  『やわらかなバッハ』 春秋社
橋本絹代 編著 《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》


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<イコール式の意味>
*12等分平均律の鍵盤楽器においてはどの調も同じ(イコール)です *フーガの各声部は主従関係ではなく対等(イコール)です *12等分平均律の調律法はイコール・テンペラメントと言います *音名と階名が同じ(イコール)読み方です
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