やわらかなバッハの会

先入観念にとらわれることなく、自由にバッハの音楽を楽しむ会です。
イコール式音楽研究所

2008年04月

調性格 ♭♭♭♭ ヘ短調

ケレタート著「音律について」

マッテゾン・・・深く重苦しい
シューバルト・・悲痛なうめき声
シリング・・・・永遠の旅立ちの予感
リューティー・・魂の崩壊
シュテファニー・闇、ひどい苦痛
リーマン・・・・最も陰鬱な調性
ベッカー・・・・測り知れない深い悲しみ

へ短調は中全音律では多くの極端な響きの和音と、純正な属和音を持ちます。暗い、憂鬱といった一定の調性格が感じられます。
調性格をもつ中全音律が一般的に使用されていたのは18世紀末まででした。
現在使われている平均律においてはすべての短調が同じ響きです。従って、ヘ短調が特に暗く憂鬱な響きをもつことはありません。
イコール式チラシ

イ短調に移調した「バッハ平均律クラヴィーア曲集」
イコール式



バッハ平均律クラヴィーア曲集におけるヘ短調をみてみましょう。
第1巻No.12 ヘ短調は内省的な思索を思わせる円熟した悲歌と、痛ましいうねりを描くフーガのテーマです。
第2巻No.12 ヘ短調はため息の動機が独特の悲哀感を漂わせるプレリュードと、ユーモアと緊張を交えて屈託無く動く舞曲風のフーガです。
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調性格 ♭ ヘ長調

イコール式チラシ

ケレタート著「音律について」
ヘ長調の調性格

マッテゾン・・・世界で最も美しい感情
シリング・・・・心底からの最も神聖な平安
フォーグラー・・非常に静か
クラーマー・・・柔和な品位
マルクス・・・・穏やかで優しい感受性
ベック・・・・・深化した自然感覚
リューティー・・(モーツァルトに関して)穏やかな気分
シンドラー・・・(ベートーベンに関して)田舎の平穏

これらはバッハの時代に一般的であった不等分音律でもって演奏した場合に感じられる調性格です。
今日一般的に使用されている平均律ではすべての調が等しい音階組織を持つので、調性格は存在しません。
従って平均律においてはヘ長調をいかなる調に移調して演奏しても、その音楽の構造は変化を全く受けません。
ハ長調とイ短調に移調したバッハ平均律クラヴィーア曲集
イコール式


今度はバッハ「平均律クラヴィーア曲集」の中にあるヘ長調を見てみましょう。
「平均律クラヴィーア曲集」第1巻No.11ヘ長調は優美な可愛い性格の2声インヴェンションと楽しげなパスピエ風のフーガです。
2巻No.11ヘ長調は平穏で柔和なプレリュードと活気に満ちたジーグ風のフーガです。

「平均律クラヴィーア曲集」の中のヘ長調を見ると、不等分音律の調性格論者たちが言う「穏やかで神聖な平安」と一致するのは2巻のプレリュードのみです。その他の曲は「穏やか」というよりはもっと可愛く、楽しく活気に満ちたものです。
バッハは「平均律クラヴィーア曲集」を作曲し演奏する際に、24すべての調が極端な響きを発生しないように調律しました。このことは「すべての長3度を純正より広く取る」とバッハ自身が述べたことからも理解できるように、今日の平均律に近い音律であったことが想像できます。
従って平均律と同じように「平均律クラヴィーア曲集」には調性格が殆んど存在しないとも言えるでしょう。

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調性格 # ホ短調

ケレタート著「音律について」

#ホ短調を明るい調として捉えているもの
シューバルト・・・純真無垢、無邪気な愛の告白

#ホ短調を暗い調として捉えているもの
マッテゾン・・・・重く垂れ込めた滅入るような気分
シューバルト・・・ぼやきの無い嘆き、
シリング・・・・・助けることができないと言う力不足にたいする悩み、絶望
ロッホリッツ・・・軽く嘆くように、冷たい、無気力、
シュテファニー・・秋のように色あせて生気がない、疲れて無気力なものを表す
リューティー・・・(モーツァルトに関して)陰気で悲劇的な要素、憂鬱

ホ短調の性格に関しては概して暗いものが多いようです。
ただし、これらはバッハの時代に一般的であった中全音律などの不等分音律で演奏した場合に感じられる調性格です。

現在私たちが演奏している12等分平均律で演奏すると、すべての調が同じ音階構造を持つのであらゆる調が同じ性格=調性格が存在しません。

イ短調に移調した「バッハ平均律クラヴィーア曲集」
イコール式


今度は「バッハ平均律クラヴィーア曲集」の中のホ短調を見てみましょう。
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第1巻ホ短調は物悲しいアリオーソ風の装飾的な旋律からプレストの嵐に進んで気分をがらりと変えるプレリュード。続く2声フーガは転調主題が休み無く動き続ける多少荒々しい感じのものです。

第2巻ホ短調は甘い感傷を漂わせたイタリア風のクーラントに続いて熱烈で多彩、エネルギッシュな純器楽曲風のフーガです。

「バッハ平均律クラヴィーア曲集」の中のホ短調は調性格論者が言う暗く憂鬱なものが1巻のプレリュードに見られる程度です。ここではホ短調に一定の調性格が感じられません。
バッハは「すべての長3度を純正より広く取って」12等分平均律に限りなく近い音律を自ら作って演奏しました。そこにはもはや調性格と言うほどの差異は残っていなかったものと想像できます。

調性格論 #### ホ長調

ケレタート著「音律について」から調性格のホ長調を書き出してみます。

####ホ長調の性格として暗いもの

マッテゾン・・・疑念に満ちた状態、死ぬ程辛い悲嘆
フォーグラー・・身を切るように辛い
クラーマー・・・尊大さ、癪に障る

####ホ長調の性格として明るいもの

シリング・・・・・悲しみの表現ではなくむしろ聖なる愛、率直         さ、純粋な楽しみ
シュテファニー・・豊な輝くもの
マルクス・・・・・明るい太陽の壮麗さのように晴れ晴れと明る         い
ベック・・・・・・精神的な暖かさ
ミース・・・・・・優雅、愛らしい、素朴
リューティー・・(モーツァルトのホ長調)気高く品位に満ちた気分、朝の気分
シンドラー・・・(キルンベルガー音律に基づいて)祝典的な表現に適している

調性格論は普通どのような音律に基づくものなのか書いてない場合が多いので、仮に同一人物が、音律の違うホ長調を聴いた時にどのような違いがあるのか不明です。

上記の調性格論を読むとホ長調は明るいものから暗いものまで実に様々なものが列挙されており、一定の傾向としての調性格が見えてきません。

ではバッハ平均律クラヴィーア曲集におけるホ長調はどうでしょうか。
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1巻ホ長調プレリュード・・・幸福な牧歌的情緒→明るい
  ”  フーガ   ・・・若々しい活気と喜び→明るい
2巻ホ長調プレリュード・・・穏やかで淡い美しさに輝く→明るい
  ”  フーガ   ・・・ラファエロ的な柔和な美しさ→明るい

バッハ平均律クラヴィーア曲集におけるホ長調は調性格論者たちの意見と異なり、明るく穏やかな一定の傾向が見られます。

バッハの平均律クラヴィーア曲集ではホ長調の調性格が一定しているので、他の調で弾くと、明るく穏やかな調性格が消えてしまうのでしょうか。

バッハは今まで使えなかった難しい調も含めて24すべての調が使えるような独自の調律法でこの曲集を演奏しました。
そのためにはすべての長3度を広く取って、今日の12等分平均律に非常に近い調律を行う必要がありました。
12等分平均律に近いということは調性格が殆んど存在しないということを意味します。

従って、平均律クラヴィーア曲集の中のホ長調に見られる明るく穏やかな性格は音楽の曲想そものの中にあるのです。ホ長調であるがゆえに明るく穏やかなのではなく、何調で演奏しても明るく穏やかな曲なのです。

このことを理解したら「バッハ平均律クラヴィーア曲集」をハ長調とイ短調に移調して弾くことに抵抗を感じなくなるでしょう。
抵抗を感じないだけではなく、この2つの調だけが、音楽の正しい理解に繋がる道なのです。
 イコール式






		
バッハ定例会
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<プロフィール>
鍵盤楽器の
新しい記譜法
「イコール式」を提唱

子供の頃、父と一緒に、バッハのフーガをピアノ分担奏で弾くことによって、声部進行を直感的に学び取った。爾来バッハの鍵盤作品の
とりこになった。

延べ400人の生徒のレッスンを通して、バッハのフーガを弾くことが音楽力を向上させる最も有効な手段であることを再認識した。
移調によって難易度を下げることで、ピアノの初心者も《平均律クラヴィーア曲集》に親しむことができる。

イコール式とは「鍵盤楽器においてどの調も皆同じ」という意味です。
なぜなら12等分平均律の鍵盤楽器における調性とは、ただ高さのみによって識別される2つの旋法、すなわち長調と短調の性格だけに限られるからです。
12等分平均律は勿論のこと、不等分音律を前提に論じたマッテゾンでさえも調性格の恣意性を指摘しています。
異名同音、ピッチの変動、バッハの手による移調の試みなどを考慮すれば、《バッハ平均律クラヴィーア曲集》の元調にこだわる必要は無くなります。簡単な調に移調して、まず親しむ方が大切なことです。
やわらかなバッハの会は既成概念にとらわれず、自分自身の判断で音楽の本質を探究するところです。
橋本絹代 著  『やわらかなバッハ』 春秋社
橋本絹代 編著 《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》


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<イコール式の意味>
*12等分平均律の鍵盤楽器においてはどの調も同じ(イコール)です *フーガの各声部は主従関係ではなく対等(イコール)です *12等分平均律の調律法はイコール・テンペラメントと言います *音名と階名が同じ(イコール)読み方です
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