平均律における移調とは旋律のキーを変えることにほかなりません。即ち旋律の音の高さを変えることが移調です。1オクターヴには12の鍵盤がありますから移調は12通りあることになります。

例えばイ長調の曲を歌手が歌い易いように半音下げて歌う場合、歌手は変イ長調で歌います。反対に輝かしい効果を狙って半音上げて歌う場合、歌手は変ロ長調で歌います。このような移調はただ単に音の高さを調節する目的で行われます。

また、オーケストラの楽器の中で、トランペットやクラリネットのような移調楽器のために他の楽器とは違う調の楽譜を用意する場合もあります。これも旋律の音の高さを他の楽器と揃えるためであり、やはり単に音の高さを調節する目的で移調されます。

ところが、イコール式は全く異なる目的で移調します。
イコール式は鍵盤楽器奏者が絶対音感的な思考方法で音名読みすることを避ける目的で移調されます。

例えばイ長調の鍵盤楽曲はイコール式では必ずハ長調に移調されます。すべての長調がハ長調に移調されます。そうすることで何調でも音名読みであると同時に階名読みができるのです。階名読みにおいては、曲の終わりの音を必ず「ド」と読むことができます。ですから言い換えればイコール式の移調は12通りの中のひとつであるハ長調ではなく、唯一の「ド長調」です。

イコール式では短調の曲の終わりの音は必ず「ラ」と読むことが出来ますので「ラ短調」です。長短調各12通りの調があるのではなく、「ド長調」と「ラ短調」の二つしかないのです。平均律において、作曲家は長調にするか短調にするかの選択肢しかないのです。陰と陽、天と地、男と女 山と川、ド長調とラ短調のごとく世界は二つなのです。

もし、絶対音感のある人がイ長調の曲をイ長調の高さのままで階名読みすると何が起こるでしょうか。階名読みで「ド」と読みながら、実際には「ラ」という音名の音が鳴るのですから、絶対音感のある人にとってこれは耐え難い状態が生じます。
しかし、イコール式では「ド」と読みながら、実際に「ド」という音名の音が鳴るので絶対音感があっても心配がありません。

反対に、絶対音感がない人にとってはどうでしょうか。イ長調の高さのままで階名読みすると「ド」と読みながら実際には「ラ」の音名の音が鳴るわけですが、絶対音感がない人はその音を「ラ」とは認識できませんので何の問題も生じません。

絶対音感がない人にとっては問題が生じない階名読みでも、イコール式の方が優れている点は移動ド読みという非常に困難な読み方を回避できるところにあります。見たそのままが階名ですから、音名から階名に読み替える必要がないのです。