やわらかなバッハの会

先入観念にとらわれることなく、自由にバッハの音楽を楽しむ会です。
イコール式音楽研究所

2007年08月

音部記号

音部記号とは5線譜の一番最初に書いてある記号で音符の読み方を決定するものです。5線上の音符の位置が同じでも音部記号のよってその読み方は変わってきます。

「グィードの手」以降13世紀頃までは音部記号とその譜表上の位置は決まっておらず、実際に鳴る音とは無関係でした。昔の作曲家は定旋律を伝統的に記譜されてきた音高で書き、ピッチを考慮せずに作品を記譜したものと思われます。ローマカトリック聖歌集では現在に至っても尚、旋律は絶対音高ではないそうです。

14世紀頃になるとト、ハ、ヘ音記号が定着してきます。
ト音記号は「ト」の音、ハ音記号は「ハ」の音、ヘ音記号は「へ」の音の位置を5線上に指定するものです。ハ音記号はバッハの自筆譜によく見られるものですが、現在のピアニストにはほとんど無縁のものです。何故ならばバッハがハ音記号で書いた作品であっても現在はト音記号とヘ音記号に書き直した出版楽譜を使うからです。

次にト、ハ、ヘ音記号をそれぞれ見ていきますが、5線は下から順に第1線、第2線と数えます。
ト音記号はソルミゼーションの「Sol」からSの文字を象形化したもので、第2線が「ト=ソ=1点g」の音を示します。ト音記号は高音部記号であり、別名ヴァイオリン記号とも言います。

ハ音記号は5線上の位置によって4種類あります。ハ音記号は反対向きのCの文字を上下に2つ連ねたもので「ハ=ド=1点c」の音を示します。ハ音記号の位置が第1線にあるものをソプラノ記号、第2線がメゾソプラノ記号、第3線がアルト記号、第4線がテノール記号です。

ヘ音記号も5線上の位置によって2種類の読み方があります。ヘ音記号はFという文字の2本の横線が2つの点に変わったもので「ヘ=ファ=f」の音を示します。ヘ音記号の位置が第3線にあるものをバリトン記号、第4線にあるものがバス記号です。単にヘ音記号と言うときはバス記号、低音部記号を指します。

音部記号の種類はト音記号1つ、ハ音記号4つ、ヘ音記号2つ、全部で7種類の読み方があることになります。ト音記号1種類だけでもなかなか読めない初心者にとって7種類もの音部記号を読むのは大変な負担です。初心者のみならず、ピアノ教師でもハ音記号などは抵抗を感じるものです。7種類もの音部記号があるにもかかわらず通常2種類しか使っていないということは実は移動ド読みの盲点なのです。このことについて次に説明しましょう。

まず「1点c=ド」を7種類の音部記号で記譜してみましょう。「1点c=ド」が下の加線の位置にくるのがト音記号(ヴァイオリン記号)、第1線にくるがソプラノ記号、第2線がメゾソプラノ記号、第3線はアルト記号、第4線はテノール記号、第5線はバリトン記号、上の加線はヘ音記号(バス記号)となります。こうして見てみると私たちは「1点c=ド」が下の加線にくるト音記号と上の加線にくるヘ音記号の両極端の2種類で普段、楽譜を読んでいることがわかります。

ではここでト長調の曲を移動ド読みする場合を考えてみます。ト長調は第2線の「ト=g」を「ド」と読むのですから、音部記号に当てはめると第2線が「ド」になるメゾソプラノ記号で読むことになります。メゾソプラノ記号で読んで弾くことができて初めてト長調読みができると言えます。ハ音記号の一種であるメゾソプラノ記号をすらすら読めるピアノ教師はほとんどいません。ということはト長調読みがすらすら読めるピアノ教師がほとんどいないということです。通常、ト音記号とヘ音記号の2種類の音部記号しか読み慣れていないピアノ教師が果たして移動ド読み出来ると言えるのでしょうか。しかも速いテンポで移動ド読みできるでしょうか。

ハ長調はト音記号(ヴァイオリン記号)読み、ホ長調はソプラノ記号読み、ト長調はメゾソプラノ記号読み、ロ長調はアルト記号読み、ニ長調はテノール記号読み、ヘ長調はバリトン記号読み、イ長調はヘ音記号(バス記号)読みです。以上7種類の音部記号が自由に読める人だけが移動ド読みができる人言えるのです。

ルソーが考案した数字譜について、ルソーが最も大きな利点として上げたのは「移調と音部記号を廃止した」ということでした。
イコール式もルソーの主張である「移調と音部記号を廃止」しました。イコール式は音部記号をト音記号とヘ音記号の2種類しか使わずに、しかも移動ド読みが簡単にできる方法です。その方法とは従来の5線記譜法を使って、ハ長調とイ短調の2つのモードに限定することです。ハ長調とイ短調の2つの調だけは固定ド読みと移動ド読みが等しくなります。等しくなるという意味からイコール式と名付けました。
イコール式の楽譜は移動ド読みする必要がありません。そのまま読むだけで音の機能を理解することができ、同時に相対音感も発達します。
イコール式の鍵盤楽器教授法は安易な固定ド読みによる教授法に警鐘を鳴らし、ハ長調とイ短調だけで音楽の構造を分りやすく理解できるように考案したものです。

ルソーの数字譜

ルソー(1712ー78)は「社会契約論」や「人間不平等起源論」などを書き、フランス革命に多大な精神的影響を及ぼした啓蒙思想家として有名ですが、その一方で、音楽家、小説家としても優れた業績を残しました。作曲家としてはオペラ・ブッファや器楽曲、100曲ほどの歌曲があり、音楽著述家としては「近代音楽論究」や「百科全書」の音楽関係項目執筆などがあります。中でもとりわけユニークな業績は従来の5線記譜法の複雑さに疑問を投げかけた数字譜の考案です。

ルソー考案の数字譜は「音楽のための新記号案」として1742年にパリの学士院で発表されました。彼は従来の5線譜が音部記号、シャープ、フラット、ナチュラル、単純及び複合拍子、全音符、2分音符、8分音符、16分音符、32分音符、全休符、2分休符、4分休符、8分休符、16分休符、32分休符など多数の記号の無駄な組み合わせから成り立っており、これが読譜を難しいものにしていると考えました。
それだけではなく彼の主張の中にはソルフェージュの根幹に関わることが含まれていました。つなわち、彼は「ミーファ」が音楽家の心に自然な形で半音の観念を呼び起こすので、ホ長調における「ミー嬰ファ」を「ミーファ」と歌うことは心を欺き耳に不快感を与えると述べました。ルソーによれば「すべての音が相対的な書き表し方を持てば十分であり、それぞれの音にそれが基音との関係で占める位置を指定すればよい。従ってドレミファソラシは1234567で表わされ、シャープ記号は右肩上がりの線を、フラット記号は右肩下りの線を数字の上に重ねて書く。シャープ、フラットは出現する度に示されるのでナチュラルは不要・・・・」と続きますが数字譜についての詳しい説明はここでは省きます。要するにルソーの新記号案とは1本の線上に7つの数字と簡単な線や点を使うだけですべての楽曲を記譜する方法でした。

発表当時ルソー考案の「音楽のための新記号案」を審査検討したのはアカデミーの物理学者、化学者、天文学者からなる3人でした。ルソーはこの3人が判断した見当違いの評価に不満を持ち、そのことを彼自身が書いた「告白」の中で「3人とも確かに有能の士であったが、しかし1人も音楽を知らず、少なくとも私の案を判断できるほど十分には知らなかった・・・私の方法の最大の利点は移調と音部記号とを廃止することだった」と述べました。

また彼は「数字譜に対する唯一のしっかりした反論はラモー(1683ー1764)によってなされた。私が彼に説明するやいなや、彼はその弱点を見抜いた。」と言いました。当時フランスを代表する機能和声論の大家であったラモーが見抜いた弱点とは「演奏の速さについていけないほどの、精神の働きを要求している」ということでした。つまり、5線記譜法では音符の動きが目に対して描かれるのに対して、数字譜では数字を一つずつ拾って行かなければならないということです。32分音符の速いパッセージを数字譜で書いたらどうなるか想像してみればラモーの指摘の正しさが理解できます。

結局、直ぐにはルソーの新記号案が5線記譜法の世界に革命を起こすことはありませんでしたが、数字譜はまずフランスの教育者たちによって受け継がれました。ガラン(1786ー1821)は数字譜を更に簡素化したメロプラストという初等学年児童のための読譜法を考案しました。これは後にパリ(1798ー1866)とシュヴェ(1804ー64)らによって改良され、ガラン・パリ・シュヴェ法としてヨーロッパに広まりました。イギリスではグラヴァーが「ノリッチ・ソルファ法」を更にカーウェン(1816ー80)が改良して「トニック・ソルファ法」を考案しました。ドイツではフンデッガーが「トニカ・ド唱法」を、ハンガリーではコダーイが教育システムに発展させました。

イコール式の記譜法はルソーが最大の利点とした「移調と音部記号を廃止する」という点で全く同じ利点を持っています。しかし、大きな相違点は数字譜を使わず、従来の5線記譜法を使うことです。従ってイコール式はラモーが見抜いた数字譜の弱点を克服したものです。イコール式は移調と音部記号を廃止し、尚且つ音を5線譜上に一連の動きとして目で見ることができます。イコール式はルソーの数字譜と正式な5線記譜法の長所を併せ持つ記譜法です。

ドレミ法

ドレミ法の起源は770年頃に書かれた単旋律聖歌「洗礼者ヨハネの賛歌」と言われています。この賛歌は初めの6行の出だしが「ウトut,レre,ミmi,ファfa,ソルsol,ラla」という音節になっています。
Ut queant laxis
Resonare fibris
Mira gestorum
Famili tuorum
Solve polluti
Labil reaturm   以下省略
この音節に合わせて1行目は音高が「ド」から、2行目は「レ」からという具合に順次上行して「ラ」に至る単旋律聖歌です。このテキストと旋律に基づいて、音節を指の関節や指先に配したものがいわゆる「グィードの手」と言われているものです。「グィードの手」は1000年頃にイタリア人修道僧のグィード・ダレッツォが考え出したとされており、ソルミゼーションのシステムを史上初めて記録したものと言われています。それ以来数世紀にわたって引き継がれていったのは6つの音節をC,G,F上に配するシステムでした。Cから始まる6音音階は「自然な」、Gは「硬い」Fは「軟らかい」ヘクサコードと呼ばれました。最初の音節である「Ut=ウト」は17世紀にギベリウスによって発案された「Do=ド」に変わりました。

「洗礼者ヨハネの賛歌」を起源とするドレミ法は音高の絶対的なピッチとの関係はありませんでした。つまり、西洋の音楽の起源は絶対的ピッチとの関連を持たない階名としてのドレミ法しか存在しなかったのです。やがてピッチが固定し始めると共に音名という概念が形成されてきました。現在ではもともと階名であったドレミ法が音名としても使われるようになりました。両方に使うということは階名という音の機能を表すものと、音名という音の高さを即物的に表すものを同じシラブルで歌うという混乱を引き起こしました。例えばト長調の場合、階名では「ドレミ」、音名では「ソラシ」と、同一の鍵盤を弾いているのにそのシラブルが異なります。

こういった混乱を整理するために考案した方法がイコール式です。イコール式は階名の「ドレミ」と音名の「ドレミ」が一致する調、すなわちハ長調とイ短調で12の全長調を記譜する方法です。「グィードの手」が考案された時代は勿論のこと20世紀始め頃まで、絶対的なピッチは存在しませんでした。「ド」のピッチが歌手ごとに違う時代や町ごとに違う時代を経て世界標準音がa=440hzと定められたのは20世紀に入ってからのことです。現在ではピッチが440hzより更に上昇傾向にある反面、古楽演奏家はバッハやモーツァルト時代のピッチに立ち戻るべく415hzぐらいの低いピッチで演奏します。

イコール式は不確実で音楽の本質とは言えないピッチを自由にすることで、ドレミ法を統一しました。イコール式ではすべての音楽をハ長調とイ短調から移調したものとして考えます。バッハ「平均律クラヴィーア曲集」の全48曲をハ長調とイ短調に移調した楽譜を使います。
イコール式では属調への転調は常にハ長調からト長調、下属調は常にヘ長調、並行短調は常にイ短調と非常に解り易くなります。

移動ド読みと固定ド読みのどちらが良いかという論争は一長一短で決着をつけ難い問題です。イコール式の鍵盤楽器教授法は移動ドと固定ドの長所を採用した解決法の一つとして提案させていただきました。イコール式によって音楽の構造が一目瞭然によく分り、相対音感をさらに伸ばすことができるでしょう。相対音感は人間が生来持っているものであり、大人になってからでも伸ばすことのできる能力です。しかも、相対音感こそ音楽の構造を表すものなのです。
バッハ定例会
第1日曜日 15:00 PM
第2金曜日 10:00 AM
第4土曜日 10:00 AM

第4回バッハ礼讃音楽会
日時:2017年7月30日(日)
午後2時
場所:山口県旧県会議事堂

富田庸講演会&公開レッスン
講演会:2017年9月9日 午後2時
公開レッスン:9月10日午前10時
場所:山口大学
大学会館1階大ホール
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<プロフィール>
鍵盤楽器の
新しい記譜法
「イコール式」を提唱

子供の頃、父と一緒に、バッハのフーガをピアノ分担奏で弾くことによって、声部進行を直感的に学び取った。爾来バッハの鍵盤作品の
とりこになった。

延べ400人の生徒のレッスンを通して、バッハのフーガを弾くことが音楽力を向上させる最も有効な手段であることを再認識した。
移調によって難易度を下げることで、ピアノの初心者も《平均律クラヴィーア曲集》に親しむことができる。

イコール式とは「鍵盤楽器においてどの調も皆同じ」という意味です。
なぜなら12等分平均律の鍵盤楽器における調性とは、ただ高さのみによって識別される2つの旋法、すなわち長調と短調の性格だけに限られるからです。
12等分平均律は勿論のこと、不等分音律を前提に論じたマッテゾンでさえも調性格の恣意性を指摘しています。
異名同音、ピッチの変動、バッハの手による移調の試みなどを考慮すれば、《バッハ平均律クラヴィーア曲集》の元調にこだわる必要は無くなります。簡単な調に移調して、まず親しむ方が大切なことです。
やわらかなバッハの会は既成概念にとらわれず、自分自身の判断で音楽の本質を探究するところです。
橋本絹代 著  『やわらかなバッハ』 春秋社
橋本絹代 編著 《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》


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音楽の構造が良く解る










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<イコール式の意味>
*12等分平均律の鍵盤楽器においてはどの調も同じ(イコール)です *フーガの各声部は主従関係ではなく対等(イコール)です *12等分平均律の調律法はイコール・テンペラメントと言います *音名と階名が同じ(イコール)読み方です
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