世界で初めて、イコール式はバッハ平均律クラヴィーア曲集 第1巻、第2巻の 全曲をハ長調とイ短調に移調した楽譜を出版しました。
イコール式とは平均律の鍵盤楽器においては調性格がイコールであるという意味のイコールとコール・テンペラメント(12等分平均律、equal-temperament)の意味から名付けました。

「なぜ移調したのか」という疑問が投げかけられるとすれば「バッハ自身が移調を試みて平均律クラヴィーア曲集を完成したから」と答える他ありません。

専門家と言われる人達の中にもバッハが移調したことをご存知ない方が少なくないようです。
そういう方達は平均律クラヴィーア曲集を移調してはならないとお考えになるのです。

バッハ自身が平均律クラヴィーア曲集を移調したのですから移調してよいはずです。



移調しても良いもう一つの理由、それは調性格というものが、平均律の鍵盤楽器には実態として存在しないことです。

平均律において調性格は皆同一であるのに、ピッチの違いにこだわってしまうのです。調性格と混同してしまっているのはピッチ性格に他ならず、調性格とは全く別の話なのです。

ピッチ性格でない、本当の調性格を得るためには、平均律ではない古典調律に変えなくてはならないのです。


平均律では調性格は皆無です。
しかし、楽譜を見ると依然として調性格が感じられます。
視覚的なもので調性格があるように考えがちですが、楽譜は楽譜であって音楽ではありません。
実際の音響としては、平均律の鍵盤楽器で弾く限り、何調であっても皆同じ調性格です。



ピアノが一般家庭に普及し始めた 1850 年頃から 1900 年頃にかけて12等分平均律が
世界中を席捲しました。このことによって長い歴史に培われてきた不等分音律は姿を消しました。

調性格が実際の音響として存在していた不等分音律が、調性格の無い12等分平均律にとって代わられました。
それは色彩豊な絵がモノトーンの絵に変わったようなものです。

バッハ、モーツァルト、ベートーベン、ショパン等々の名曲は12等分平均律が一般的になる前に不等分音律でもって作曲されたものです。
作曲家は不等分音律ゆえに特定の調でもって曲想を得て作曲したのです。

これらのことを考慮せずに、12等分平均律の鍵盤楽器で弾いて作曲家が意図した本来調性格を壊しているのが現在の音楽活動です。

現在のピアノも電子楽器も同じく12等分平均律で調律します。
電子楽器のトランスポーズつまみを回して調を上げ下げした時、旋律や和声の本質が変化するでしょうか?

あるいは歌い手の音域に合わせるために調を上げ下げした時、旋律や和声が本質的に変化したと言えるでしょうか?

12等分平均律の楽器においては調を上げ下げしても、旋律や和声の本質は何の変化も受けず、調性格の変化もありません。

反対に不等分音律では調を上げ下げすると音階構造の変化に伴い旋律や和声が変化し、調性格も異なります。


現在は実際の音響としての調性格が無くなってしまったにもかかわらず、楽譜の上にだけ、演奏者の空想の中にだけ残っているのです。

「百聞は一見にしかず」と言うように、人は聴いたものより見たものによって物事を多く判断する傾向があります。
耳から聴いた音より目から見た楽譜の方を重視して音楽を判断している現在のピアニストは、あたかも絵画を耳で判断しようとする愚かな行為をしていることに気付く筆必要があります。

いやしくも音楽家であるならば、楽譜だけで判断するのではなく、音を聴いて判断することが大切です。

平均律の鍵盤楽器で演奏された音楽は、調の上げ下げによって旋律や和声が変化せず、調によって調性格が変化することもありません。
反対に不等分音律の鍵盤楽器では調を上げ下げすると音階構造の変化に伴って旋律や和声が変化し、調が変われば調性格も様々に変化します。

しかし平均律の鍵盤楽器であっても調の上げ下げによって音高=ピッチは変化します。ピッチについては後ほど詳しく述べますが、これは時代と共に変化してきたものであり、ピッチという絶対音高と調性格は別物です。

「平均律クラヴィーア曲集」の調を上げ下げしても12等分平均律の楽器で演奏する限り音楽の本質は何ら変化しません。
イコール式が提案するハ長調とイ短調で演奏しても、平均律の鍵盤楽器で演奏する限りにおいては音楽の本質は全く変化しないのです。

逆に言えば、原調の24の調で演奏しても平均律の鍵盤楽器で演奏する限り、その音楽の本質は同じであって、そこにはモードとして長調と短調の2種類しか存在しません。
もし、24種類の調性格を実際の音として聴きたいならば、不等分音律の楽器で演奏しなければなりません。

平均律の鍵盤楽器で演奏する「平均律クラヴィーア曲集」は本質的に長調と短調の2つしかないのに、わざわざ調号の多い調で弾くことは音楽の正しい理解を困難にしているだけではないでしょうか。

イコール式のハ長調とイ短調だけの楽譜を用いれば音楽の構造が一目瞭然に読み取れるのです。


音楽は長い歴史を通して相対音感で捉えられてきましたが、20世紀後半から絶対音感という考え方が台頭してきました。
このことによって、絶対音感という考え方が無かった時代の音楽まで絶対音感で演奏するようになってしましました。
音楽を最初から絶対音感で読むのではなく、まず相対音感で読むことが大切であり、それが作曲家の方法です。
よってイコール式は音楽の正しい理解への道を開くものです。