やわらかなバッハの会 The Society of Soft Bach

先入観念にとらわれることなく、バッハの音楽に親しむ会です。
イコール式音楽研究所  所長  橋本絹代
Equal Method Music Institute President Kinuyo Hashimoto

バッハの手による移調 1巻No.8

平均律クラヴィーア曲集は1巻2巻共に、プレリュードとフーガを一組としてハ長調、ハ短調、嬰ハ長調、嬰ハ短調の順に半音ずつ上がり、ロ長調、ロ短調で終わる構成になっています。
ところが1巻のNo.8だけはプレリュードが♭6個の変ホ短調、フーガが#6個の嬰ニ短調です。なぜバッハはプレリュードとフーガを同じ調で書かなかったのかという疑問が湧いてきます。

この疑問を解く鍵がフーガの第16小節の1拍目にあります。
第14小節の最後から始まるのソプラノ上行音階はロ音上の掛留で停滞するのではなく、いっきに嬰ニまで上昇したはずです。ところが上行音階の最高音となるはずの嬰ニ音が当時のクラヴィーアにはありませんでした。バッハが平均律クラヴィーア曲集に用いたクラヴィーアは3点ハが最高音だったからです。

シュピッタ(近代バッハ研究の基礎を築いた音楽学者)たちの主張によると、バッハはニ短調で書いたフーガを嬰ニ短調に移調する際、旋律線の頭を撥ねなければならなかったというわけです。
今日の私たちは、本来の望ましい形に書き換えて演奏することも可能です。実際、
バレンボイムは上行音を一気に嬰ニ音まで駆け上がる形で演奏しています。

バッハが平均律クラヴィーア曲集を編集するにあたって、ニ短調を嬰ニ短調に移調したために、プレリュードと揃えて変ホ短調にすることができず、嬰ニ短調にしたのでしょう。
また、プレリュード自体もホ短調からの移調であると考えられています。
これらの移調は♭系から#系への遠く離れた調への移調であり、調性格に対する配慮をそこに感じることはできません。

「平均律クラヴィーア曲集」は史上初めて24すべての調を網羅した記念碑的作品です。それまでに無かった新しい調を開拓したのですが、その開拓に相応しい新しい感情が開拓されたのではありません。

バッハにとって、「平均律クラヴィーア曲集」の目的は24すべての調を踏破することだけで十分でした。24種類の調性格まで列挙して確立することを考えていたとは思われません。
何故なら、バッハ自身がすべての調を弾くことが可能な調律法を考案し、その調律で自ら平均律クラヴィーア曲集を弾いたからです。平均律に限りなく近い調律で弾く場合、もはや調性格の確立は不可能であることをバッハ自身が一番良く承知していたことでしょう。

「平均律クラヴィーア曲集」を何故移調したのか

私は楽典や音楽理論を知るに及んで、音楽を直感だけではなく理論的に理解するようになりましたが、それは音で理解するのではなく、机上で理解するものに過ぎませんでした。何かが変だという漠然とした違和感を抱きなら各種のピアノメソード、各楽器メーカーの教育システム、リトミック、オルフシュールベルクなどを研究して解決の道を探りました。

そんなある日、書店でケレタート著「音律について」という本が目に留まりました。早速読み始めると「平均律に調性格はない。平均律には長調と短調の選択肢しかない」と書いてあり衝撃を受けました。「それなら何故、私たちは調性格のない平均律のピアノを弾いているにもかかわらず、バッハの平均律クラヴィーア曲集を24もの難しい調で弾かなければならないのか」という疑問が湧いてきました。               
私は直ぐに「バッハ平均律クラヴィーア曲集」を楽譜作成ソフトのフィナーレを使って全曲ハ長調とイ短調に移調して弾いてみました。自宅の2台のグランドピアノを従来の平均律ではないキルンベルガー、ヴェルクマイスター、ミーントーンなどの音律に変え、更に多種の音律が設定できるキーボードでも弾き比べてみました。そのような研究の結果でき上がったのがイコール式平均律クラヴィーア曲集です。
ハ長調とイ短調に移調した「イコール式 バッハ平均律クラヴィーア曲集」は下記の URLをご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/equal_shiki/

アグリーコラによるバッハ賞賛

ーーーギリシャにはただ一人のホメーロスしかなく、ローマにはただ一人のヴェルギリウスしかなかったごとく、ドイツもまたただ一人のバッハをもったにとどまるかのようである。今日にいたるまで、作曲の技においても、オルガンやチェンバロの演奏においても、彼に比肩しうるものはヨーロッパ広しといえど一人としてなく、将来もまた、なんびとも彼を凌駕し得ないであろう。かの名高いマルティーニ神父の和声、マルチェッロの巧妙さと創意、ジェミニアーニの歌唱的な旋律と様式、はたまたスカルラッティの手腕、たとえそれらを一つに合わせても、このバッハ一人には遠くおよばないのであるーーー

アグリーコラ:1720〜74
       ベルリンで活躍した作曲家       
       ライプッヒ大学に入るとすぐに楽長バッハ氏のも とでレッスンを始めた。バッハのカンタータ演奏に直接参加 し、写譜などにも協力した。

シュヴァイツァー

シュヴァイツァー(1875〜1965)はオルガンの名手であり音楽家としての成功を約束されていましたが、30歳の時、医療と伝道に生きることを志し、アフリカのランバレネにおいて、住民への医療などに生涯を捧げました。彼は医師としてアフリカに行く準備のための多忙な生活の中で『J.S.Bach』を書き上げました。この論文は今もなお、バッハ研究書としての価値を失わずシュヴァイツァーの名を永く音楽界に残すことになりました。この中から一部を以下に引用します。

「本物の芸術と偽者の芸術を区別する分別においてはたしかにずっとすぐれているとすれば、それは第一にバッハのこれらの曲に負うものといえよう。それを練習したことのある子供はーその際どんなに機械的に行われたにせよー声部進行を目のあたりに学び取るのであり、この直感は2度と消し去られることはないであろう。そのような子供は他のどんな曲にも同様な音響の線による尊厳な動きを本能的に求めるようになり、その欠如を貧しさと感ずるであろう。」

また彼は《平均律クラヴィーア曲集》の世界を次のような美しい言葉で表現しています。
「平均律クラヴィーア曲集は宗教的な感化を与える。喜び悲しみ泣き嘆き笑いーすべてが聴く者に向かって響き寄せてくる。しかし、その際にわれわれは、このような感情を表現する音によって、不安の世界から平安の世界へと導き入れられ、あたかも山間の湖畔で底知れない深さをたたえた静かな水面に山や森や雲の映る姿を眺めるときのように、現実を見るのである。平均律クラヴィーア曲集ほど、バッハが自己の芸術を宗教を感じていたことをよく理解させてくれる作品はない。彼が描写するものは、ベートーベンがそのソナタでしたような自然のままのさまざまな魂の状態ではなく、また一つの目標に向かっての苦闘や抗争でもなく、生を超越していることをあらゆる瞬間に自覚している精神―最も激しい悲しみと最も底抜けの朗らかさなどの極度に対立した感情をいつも同一の超然たる根本的態度によて体験する精神―が感じ取る生の実在なのである。それゆえに第1巻の悲痛に打ち震える「変ホ短調プレリュード」の上にも、また第2巻の憂いなく流れてゆく「ト長調プレリュード」のなかにも同一の浄い光が漂っている。」

バッハ 平均律クラヴィーア曲集  イコール式版

平均律クラヴィーア曲集全48曲をハ長調とイ短調に限定して移調したイコール式版
新バッハ全集(ベーレンライター版)を基にして編集

あなたも、いくらでも好きなだけの名曲を弾ける世界を体験することができます。
もし、あなたがご存知の名曲を演奏したいと思っておられるなら、このページは今までご覧になった中であなたに最も重要なメッセージをお伝えすることになるでしょう。
http://blog.livedoor.jp/equal_shiki/

多声音楽は連弾で弾こう



鍵盤楽器は一人で3声、4声を受け持って多声音楽を演奏しますが、管楽器や声楽はその特性から1声しか受け持つことができません。人間の頭は一つしかないのですから、一人1声が基本です。無理して3声4声を弾いても、頭の中はテーマが出てくるパートを綱渡りしているだけで、結局一度に1声しか聞いていない場合が少なくありません。曲の最初から最後まで、たった一つの声部でさえ1音もらさず横の流れを聞き取って演奏できる人は稀です。
鍵盤楽器も無理せず、アンサンブルで多声音楽を楽しみましょう。
イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集は全曲をハ長調とイ短調に移調しました。鍵盤曲の私の音楽の原点は父と一緒に1台のピアノで連弾したバッハの多声音楽です。
父は大阪フィル創立名誉指揮者の朝比奈隆が学んだ京都大学交響楽団でクラリネットを吹いていました。朝比奈隆は京都大学法学部を卒業後、再度文学部に入学するなどして、京都大学交響楽団指揮者のメッテルに学び、やがてプロの指揮者になってしまった方です。朝比奈隆は世界中のオーケストラを指揮し、グレン・グールド、メニューヒン、パールマンなどと協演しました。また音楽人としては山田耕作以来2人目の文化勲章受賞者として、93歳まで現役指揮者を通すという輝かしい生涯でした。
父は先輩の朝比奈隆を尊敬しながら、大学ではクラリネット、家ではオルガンに親しみました。卒業後はOBオーケストラを楽しみにし、仕事で海外に出張した時は必ずその地のオーケストラを聴いてくるという愛好家でした。
私が父から受け継いだものを一言で言うと「アタマ、アタマ!」です。
この言葉は朝比奈隆の師であるメッテルの言葉です。メッテルはウクライナに生まれ、大学で法律を学んで弁護士になり、その後、リムスキー=コルサコフやグラズノフについて音楽を学びました。奥さんが宝塚歌劇団の日本人であった縁で、京都大学交響楽団の指揮者になった人です。

音楽を愛した父と子供だった私は、ちょっと変わったピアノ連弾をよくやりました。それはピアノソロ用の楽譜を上段と下段に分けて2人で分担して弾く連弾です。この方法は片手練習の手軽さで曲全体が音になるのでブルグミュラー、ソナチネ、ソナタ、バッハ、その他の名曲を簡単に楽しむことができました。とくに多声音楽の声部進行には連弾が最適な方法でしたので、子供だった私でも直感的にバッハの声部進行を学び取ることができました。その時以来バッハのフーガに魅せられ、多声音楽意外のものを物足りなく感じるようになりました。

バッハのフーガは難しいとされて初心者のレッスンでは敬遠されがちですが、連弾で弾けば簡単です。管楽器や声楽の人は最初から1声分しか担当できません。ところが鍵盤楽器奏者は頭が一つしか無いのに、一人で幾つもの声部を弾かなくてはなりません。それ故にテーマばかりを拾って繋ぐパッチワークのような演奏になり勝ちですが、連弾で弾けば簡単に声部進行を正しく理解できます。

一人ですべての声部を弾く醍醐味も捨て難いものですが、アンサンブルの形で弾く楽しみはまた格別なものがあります。
最高峰である「バッハ 平均律クラヴィーア曲集」を是非アンサンブルでお弾きください。カワイ出版のご協力を得て、世界に類を見ない、バッハ平均律クラヴィーア曲集を発売中。http://blog.livedoor.jp/equal_shiki/

調を表す#と♭はもう要らない

ベートーベンの悲愴ソナタは調号の♭が3つ付いたハ短調です。ベートーベンに限って言えば、ハ短調は悲劇的な感情に満ちた作品を支配しています。

これはベートーベンが作曲する際に弾いたピアノがキルンベルガー音律であったことと深い関係があります。キルンベルガー音律のハ短調はピュタゴラスに近い主和音と中全音律に近い属和音を持ちます。これらの特徴が、ベートーベンにとっては悲劇的な感情と強く結びついていたのでしょう。

もし、ベートーベンが平均律のピアノで作曲していたらどうなったでしょうか。平均律は主和音も属和音もすべての和音が同じ響きをもつモノトーンの世界です。すべての調が均一ですからハ短調だけが悲劇的なわけでも何でもありません。平均律に調性格は存在しません。

ベートーベンが調にこだったのは調性格が存在した証拠です。
つまり、調性格が存在する不等分音律のピアノで作曲したからに他なりません。

平均律のピアノが普及したのは大体ドビュッシー以降ですから、古典派やロマン派の作曲家の殆どは不等分音律のピアノで作曲したことになります。

現在、私たちは平均律のピアノを弾いています。平均律に調性格は存在しないので、ベートーベンの悲愴ソナタをハ短調で弾いてもその他の調と比べて、特に悲劇的な感情が感じられるわけではありません。悲愴ソナタを何調で弾いても同じです。悲愴的な感情は和音や旋律にあるのであって、ハ短調という調にあるわけではありません。

奏いう訳でイコール式はすべての調性音楽をハ長調とイ短調に移調して考える合理的な記譜法を用います。すべての長調はハ長調にすべての短調はイ短調に移調しますから、ハ短調の悲愴ソナタはイ短調に移調して弾きます。ハ短調とイ短調は短3度離れますが、そのことによって音楽の和音や旋律は変わるのではありません。

音楽は音の高さ=周波数で変わるのではなく、和音や旋律で変わるのです。
例えばバッハは普通より短3度高く調律されたオルガンを平気で弾きました。これは周波数からいえばイ短調からハ短調に高くしたようなものですが、音楽は何ら変わりません。

イコール式は提案します。
これからはすべての調性音楽をハ長調とイ短調で弾きましょう。
すべての調はハ長調とイ短調からの移調として考えましょう。
もう調を表す#や♭は要りません。




イコール式の移調

平均律における移調とは旋律のキーを変えることにほかなりません。即ち旋律の音の高さを変えることが移調です。1オクターヴには12の鍵盤がありますから移調は12通りあることになります。

例えばイ長調の曲を歌手が歌い易いように半音下げて歌う場合、歌手は変イ長調で歌います。反対に輝かしい効果を狙って半音上げて歌う場合、歌手は変ロ長調で歌います。このような移調はただ単に音の高さを調節する目的で行われます。

また、オーケストラの楽器の中で、トランペットやクラリネットのような移調楽器のために他の楽器とは違う調の楽譜を用意する場合もあります。これも旋律の音の高さを他の楽器と揃えるためであり、やはり単に音の高さを調節する目的で移調されます。

ところが、イコール式は全く異なる目的で移調します。
イコール式は鍵盤楽器奏者が絶対音感的な思考方法で音名読みすることを避ける目的で移調されます。

例えばイ長調の鍵盤楽曲はイコール式では必ずハ長調に移調されます。すべての長調がハ長調に移調されます。そうすることで何調でも音名読みであると同時に階名読みができるのです。階名読みにおいては、曲の終わりの音を必ず「ド」と読むことができます。ですから言い換えればイコール式の移調は12通りの中のひとつであるハ長調ではなく、唯一の「ド長調」です。

イコール式では短調の曲の終わりの音は必ず「ラ」と読むことが出来ますので「ラ短調」です。長短調各12通りの調があるのではなく、「ド長調」と「ラ短調」の二つしかないのです。平均律において、作曲家は長調にするか短調にするかの選択肢しかないのです。陰と陽、天と地、男と女 山と川、ド長調とラ短調のごとく世界は二つなのです。

もし、絶対音感のある人がイ長調の曲をイ長調の高さのままで階名読みすると何が起こるでしょうか。階名読みで「ド」と読みながら、実際には「ラ」という音名の音が鳴るのですから、絶対音感のある人にとってこれは耐え難い状態が生じます。
しかし、イコール式では「ド」と読みながら、実際に「ド」という音名の音が鳴るので絶対音感があっても心配がありません。

反対に、絶対音感がない人にとってはどうでしょうか。イ長調の高さのままで階名読みすると「ド」と読みながら実際には「ラ」の音名の音が鳴るわけですが、絶対音感がない人はその音を「ラ」とは認識できませんので何の問題も生じません。

絶対音感がない人にとっては問題が生じない階名読みでも、イコール式の方が優れている点は移動ド読みという非常に困難な読み方を回避できるところにあります。見たそのままが階名ですから、音名から階名に読み替える必要がないのです。

メロプラスト法

メロプラスト法
メロプラスト法とは音部記号のない5線譜表のことです。フランスのガラン(1786〜1821)が考案し、ガラン=パリ=シュヴェ法の中で用いられる指導法です。

図をクリックして拡大していただくと、一人の教師と楽器を持っていない生徒たちとのソルフェージュの授業風景であることが分ります。前のボードには5線と上下各2本の加線が書いてあり、音部記号がありません。教師が棒で指し示しているのは第2線です。もし、音部記号としてト音記号が書いてあると想像して読めば、教師の棒は「ソ」の音を示していることになります。
しかし、メロプラスト法では音部記号がなく、「ド」の位置が移動するので、これが必ずしも「ソ」になるとは限りません。つまりメロプラスト法では、「ド」の位置を何処にするかによって、教師が指している第2線が「ドレミファソラシ」の中のどれか一つという7つの可能性を持つことになります。

教師が7種類もの「ド」記号で読む練習をさせているということは、言い換えれば移動ド読みの練習です。ピアニストは普段、7種類もの「ド」記号で読む練習をしていないので、調ごとに「ド」の位置が変わる移動ド読みは苦手という人が多いでしょう。苦手というより、ピアニストの特性として、移動ド読みを排除して、固定ド読みの人が多いでしょう。

この現象は従来のピアノ教授法がもたらした当然の結果と言えます。従来の教授法では、まず最初に下第1線の「ド」がピアノの真ん中の「ド」であると教えます。これは明らかに1種類の「ド」記号しか念頭に置いていない教授法です。本当は「レ」と読む場合や「ミ」と読む場合など調によって7種類もあるのです。もっと厳密に言うならば「ド」と「嬰ド」を分けて12種類あることになります。
下第1線を何と読むかという問題は音部記号と調によって様々に異なります。

こういったことを考慮せずに、従来の教授法ではたった一つの読み方で短絡的に「ド」と教える場合が多いのです。その結果、音楽的白紙状態にある生徒が初歩の段階から固定ド読み教育を受けてしまうのです。ハ長調の次にト長調が出てくる頃には、既に移動ドで読む芽を摘まれてしまっているので、ト長調の「ドミソ」を「ソシレ」と読んで何の疑問も持たなくなっています。そして、どんどん調号が増えるに従って、固定ド読みの教授法が続いていくのです。

イコール式では、すべての調性音楽をハ長調とイ短調に移調した楽譜を用います。
これは1種類の「ド」記号だけであらゆる調の音楽を、正しく読むことができる方法です。イコール式は固定ド読みの弊害を改め、音楽を正しく理解するための相対音感による鍵盤楽器教授法を提唱しています。

バッハ時代のソルミゼーション

バッハが平均律クラヴィーア曲集第1巻の巻頭に書いた「長3度ドレミ、短3度レミファに該当するすべての全音と半音によるプレリュードとフーガ」と言う表現にバッハ時代のソルミゼーションが感じられます。バッハの巻頭の言葉は24すべての調を網羅した曲集と言う意味ですが、現代人なら、長3度をドレミ、短3度をラシドと書くのではないでしょうか。では何故バッハは短調を意味する短3度を「ラシド」ではなく「レミファ」と書いたのでしょうか。

これについて考えるにはグイードが考案したとされる6音音列のヘクサコードを簡単に説明しなくてはなりません。
ヘクサコードとは2オクターヴと6度に渡る声域を「ドレミファソラ」の6音を使ってムタツィオ(階名の読み替え)しながら歌う実践的な階名唱法です。ヘクサコードには自然、硬い、軟らかいの3種類があります。自然なヘクサコードはハ長調、硬いヘクサコードはト長調、軟らかいヘクサコードはヘ長調と考えると理解し易いでしょう。

ヘクサコードでは「ミファ」は必ず半音になります。また現在の「シ」に当たる音はフラットが付くときは「ファ」、ナチュラルあるいはシャープのときは「ミ」と歌います。余談になりますが、ナチュラルとシャープは同じ意味として用いられた時期もありました。

バッハの弟子であるアグリーコラ(1702〜74)が書いた「歌唱芸術の手引き」によるとムタツィオは上昇のときは階名「レ」によっておこなわれ、下降のときは階名「ラ」によっておこなわれました。また、バッハ時代の人々はハ調以外の長音階はすべてハ調からの移調として歌い、イ調以外の短音階はすべてイ調からの移調として歌いました

アグリーコラの方法で自然ヘクサコードから硬いヘクサコードに「レ」でムタツィオすると「ドレミファソレミファ」となります。これが今日で言う7音音列であるハ長調音階の歌い方です。

次に硬いヘクサコードから自然なヘクサコードに「レ」でムタツィオすると「レミファレミファソラ」となります。これが今日で言うイ短調自然音階の歌い方です。

ヘクサコードの大まかな説明に留めましたが、これでバッハが平均律クラヴィーア曲集1巻の巻頭に書いた「短3度レミファ」の意味がお分かりいただけたかと思います。バッハの時代、今日で言う短調は「レミファ」と階名唱しました。そもそもヘクサコードの中に「シ」と言うシラブルがないのですから短調を「ラシド」と階名唱することは不可能でした。

イコール式はすべての調をハ長調とイ短調から移調したものとして考えます。
バッハ平均律クラヴィーア曲集全48曲をハ長調とイ短調に移調したイコール式版を出版しました。





やわらかなバッハの会
〒753-0072 山口県山口市大手町
3−6 大手町ビル4F
毎週土曜日 輪奏会17:00 PM
第2金曜日 輪読会10:00 AM
毎月1回   対話集会17:00 PM
都合により日時を変更する場合もありますので初めての方は事前にご連絡ください

お問い合わせはこちら

<プロフィール>
やわらかなバッハの会 
会長 橋本絹代
新しい鍵盤楽器記譜法「イコール式」の創始者

子供の頃、父と一緒に、バッハのフーガをピアノ分担奏で弾くことによって、声部進行を直感的に学び取り
バッハのとりこになった。
これまで約400人のピアノレッスンを通じて、バッハのフーガを弾くことの重要性を認識し、初級者でもバッハ演奏を楽む方法を提案。

2007年 世界で初めての楽譜《イコール式バッハ平均律クラヴィーア曲集》カワイ出版 

2009年 音楽書『やわらかなバッハ』春秋社

2013年「やわらかなバッハの会」設立

2014年 バッハ礼讃音楽会 (於 旧県会議事堂) 毎年開催

2016年 バッハ・イン・ザ・サブウェイズ (於 新山口駅南北自由通路 )毎年開催

2017年 Bach Network UK 対話会議研究発表 (於 ケンブリッジ大学)

Prof.Yo Yomita (富田庸) 講演会「バッハを嗜む」主催 (於 山口大学)

イコール式とは「鍵盤楽器においてどの調も皆同じ」という意味です。
なぜなら12等分平均律の鍵盤楽器における調性とは、ただ高さのみによって識別される2つの旋法、すなわち長調と短調の性格だけに限られるからです。
12等分平均律は勿論のこと、不等分音律を前提に論じたマッテゾンでさえも調性格の恣意性を指摘しています。
異名同音、ピッチの変動、バッハの手による移調の試みなどを考慮すれば、《バッハ平均律クラヴィーア曲集》の中の難しい調を簡単な調に移調してまず親しむことが大切です。初級者は更にそれをアンサンブルで楽しむことが大切です。
やわらかなバッハの会は既成概念にとらわれず、自分自身の判断で音楽の本質を探究するところです。


世界唯一! 平均律クラヴィーア曲集の移調
音楽の構造が良く解る










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<イコール式の意味>
*12等分平均律の鍵盤楽器においてはどの調も同じ(イコール)です *フーガの各声部は主従関係ではなく対等(イコール)です *12等分平均律の調律法はイコール・テンペラメントと言います *音名と階名が同じ(イコール)読み方です
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